※このお話は個人の妄想(BL)であり、実在の人物・団体とは一切関係がありません。
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櫻井さんはひとつひとつ丁寧に作品をじっくりと眺めている。
その横顔も立ち姿も凛としていて、とても気品があって。
高貴な佇まいはまるでヨーロッパの貴公子みたいだ。
──君は綺麗な顔をしているね。
君がこの画廊1番の芸術品みたいだ──
さっき櫻井さん、、に、、そう言われたけど、、
櫻井さんのほうこそ、『綺麗』で『芸術品』だと思うのだけど。。
…。
俺はあんなこと言われたからか、、つい、、櫻井さんのことが気になってチラチラと彼の方を見てしまう。
あれはなんだったんだろ…。
……。。
それともハイソサエティな人は、、ああいうことを軽い気持ちで言うのかな…。。
なんつーか、、貴族の遊び的な…。。
………。。。
とはいえ、それ以上話す機会もなく。
小一時間ほど作品を見たあと、櫻井さんは俺に、
「また来るよ」
と言って、去って行こうとしたから。
「あ、あの…!」
「え?」
俺の咄嗟の声かけに、櫻井さんは振り返る。
「あ、あの、、
もうすぐ雨が降りそうなので…
良かったら…」
俺はビニール傘を差し出した。
この画廊は駅近ではないので、もし駅まで歩く途中で雨に降られたら、結構濡れることになるし…。
櫻井さんの着てる上質なスーツが雨に濡れたら大変だし…。
でも櫻井さんが戸惑ったように俺を見るから。
あ、、
もしかして、、
こんなにお金持ちそうな人なんだから、、駅まで歩いたりなんかしなくて、、車、、ハイヤーとかタクシーとか、、に決まってるよな…。
それに、こんなみすぼらしいビニール傘なんて使わないか…。
咄嗟のことだったから、受付の見えないところに置いていた俺の私物の置き傘を渡してしまったけど。
ちゃんと倉庫に行って、画廊で準備しているお客様用の傘を取ってくれば良かった…。。
俺は急に恥ずかしくなって手を引っ込める。
「す、すみません!
こんなの、、櫻井さん使わないですよね…!」
「…いや、、
借りるよ。
ありがとう」
櫻井さんは俺から傘を受け取った。
「…また後日、返しに来るから」
俺は顔を上げる。
「…いえ!
これ、ただのビニール傘ですから!
そのまま処分していただいても……」
「…いや、、
必ず返しに来るよ。
…君の名前、、聞いてもいいかな…」
「…あ、、
まつもと、、松本です…」
俺はまたもや恥ずかしくなって何となく下を向く。
「…そう。
松本くん…。
すぐには無理かもしれないけど、、必ずまた来るから」
櫻井さんはそう告げて、俺のビニール傘を大切そうに持って、今度こそ画廊の扉を開けて出て行ってしまった。