俺の跡を継いで次期家元になりたいと宣言した修は、自分の言葉に興奮しているのかまた同じことを繰り返す。


「僕が翔お兄ちゃんみたいな立派な家元になったら、、きっと僕にも潤お兄ちゃんみたいな人が現れるよね!」


何度も楽しそうに話す修の無邪気な言動が微笑ましくて。
俺はかがんで修と視線を合わせた。


「…『天にあっては比翼の鳥となり、地にあっては連理の枝とならん』
…俺にとっての潤は、、そういう存在だからな。
きっと修にもいつか、、そういう人が現れるよ…」


「…また翔お兄ちゃんは難しい言葉を使ってさ…
俺が子どもだからって誤魔化そうとしてない?」


修が少年らしくまだ丸い頬をぷうっと膨らませる。


「…中国の唐の時代の白居易っていう詩人の『長恨歌』の中の有名な一節だよ。
比翼の鳥、、連理の枝、、
『比翼連理』…。
…まぁつまり、、互いの情愛が深くて、、ずっとずっと、、永遠に仲睦まじいってことだね」


「…ふぅん?
とにかく、いつも一緒で仲良し、ってことなのかな?」


「…そういうこと」


俺は修から視線を外し潤を見つめて笑いかけた。


「…潤はさっき、「今の僕がいるのは翔くんのおかげ」って言っていたけど、、
…俺こそ、、今の俺がここにいるのは、、潤のおかげなんだよ…
…潤が、、俺のとなりにいて、、ずっと俺に力をくれて、、尽くしてくれたから…」


「しょおくん…」


潤の大きな瞳が揺れる。


「…潤がいてくれたら俺は何だってできる。
何にでもなれる。
それを教えてくれたのは潤だよ。
これからも永遠にずっと、、俺のそばに…」


「しょおくん、、
そんな、、
僕こそずっと…永遠に…」


潤の目尻が僅かに潤んで…


「…あっ!
潤お兄ちゃんが泣いてる!
もー!
翔お兄ちゃん、潤お兄ちゃんを泣かせちゃダメでしょ!」


修がプンプンと目くじらを立てる。
その時、楽屋の扉がコンコンとノックされ、内弟子のひとりが顔を出した。


「…修さん。
お母様がお呼びです。こちらにいらして下さい。」


修は「えー?つまんない、、」とかぶつぶつとごね始めるが、内弟子が、



「智さんと二宮さんもたった今お越しになられて、修さんのお父様とお母様にご挨拶をされていますよ」
と付け加えると、



「えっ?!
智兄ちゃんと和兄ちゃんが?!
だったら行く!!」



コロッと態度を変えて、ばびゅーんと部屋を飛び出して行く。


そして内弟子は俺に向けて静かに言葉を継いだ。


「…翔さんも、、そろそろご準備を…。」


「…あぁ、、
分かった。」


内弟子がその場を去った後、俺は再び潤に向き直り、優しく笑いながらハンカチでそっと潤の涙を押さえた。


「…さ…
まずは今日の家元継承の儀を滞りなく済ませないとな…。
その後はメディア向けの記者会見もあるし…。
潤、忙しいとは思うけど、今日は頼むな…?」


「…はい」


涙を拭い終えた潤が俺の言葉に笑顔で大きく頷く。
今日の潤の着物は藤色と葵色がグラデーションになったとても上品なもの。
潤は相変わらず藤色の若紫が好きだが、葵色が混じるとなんだか気合いが入るらしい。
「今日は翔くんの家元襲名っていう、一世一代の大切な日だから」と、まるで合戦に向かうような気持ちで新たにあつらえたと聞いた。


「…そうだ…
また近々『やまかぜこどもの家』に顔を出しに行こうか。
園長先生からこの間手紙がきていたよ。
俺と潤に会いたいって」


「ほんとに?
楽しみ…」


俺たちは微笑み合い、軽く互いの唇を合わせる。
そして手を取り合って部屋の外へと出て行く。



光り輝く俺たちの未来へと。



今日は長い1日になりそうだ。



「花」
ー終ー



…💖💜