<彼女・20>




なにがどうなったのか、わからなくなっていた。




雪美が僕に 『カズと友達に戻りたいなんて一度も言ってないわ・・・』 そう言ってから




急に雪美が僕の首に自分の顔を押しつけて抱きしめてきたのだ。




目の前にいるのが本当に雪美なのか疑いたくもなったが確かに雪美なのだ。




『雪美?』 




どうした?・・・・次の言葉が出てこない。




こうやって抱きしめられたら抱きしめ返せばいいのに、




ギュッとするタイミングを逃してしまう・・・・そこが僕の足りないところ・・・




『ごめんなさい』 そう言って雪美はゆっくり離れて僕の顔を切なそうに見上げてくる。




『もっと早くこうしていれば良かったのかもしれないわ・・・』 




目頭にフッと浮かんだ涙を人差し指で拭って僕に笑いかけてくる。



『私ね・・・・きっと、ずいぶん前からあなたのことが好きなのね・・・・でも、言えなかった・・・・。怖くて、言えなかった。今更ながらバカだって思うの・・・こうやって心の中で反芻してる間に、私は自分から違う籠の鳥になってしまって・・・あなたも違う女のものになってしまった・・・。お互い、好きあっていたって言うのに・・・』




『雪美・・・・』




その言葉を聞いた時、僕は離れた雪美を引き寄せて抱きしめる。




たとえ、今この時はお互いに相手がいるとしても・・・




その相手とはもう既に壊れている関係なのだ・・・・。




もう、僕が君を手に入れることになんの躊躇もいらない・・・




こうやって長い間、悩んで苦しんで想いをくるみながら生きてきて堂々巡りで・・・




いつまでもいつまでも好きな彼女。




想いをちゃんと伝えなかった若い頃の自分に後悔もしたけれど




もしかしたら、その時間があったからこそ二人は心を通わそうと思ったのかもしれない。




僕は雪美を抱きしめがら初めて想いを伝えあうキスを交わした。




その唇はあたたかく柔らかい。




やっと言える。




今日から君は僕のもの・・・僕だけの彼女。



                   <終>