<彼女・15>




逢う場所は決まって僕の車の中




待ち合わせて、細心の注意を払って誰にも見られないように・・・




雪美の人生に傷をつけてはいけない・・・・




たとえ、僕たちが友人なのだと言い張っても世間はそう思わない。




だから、僕の車の中。




後部座席に座った雪美は、人の目がなくなったところでようやく隠れていた姿を現した。




そして助手席の扉を開けてスルリと体を滑り込ませる。




『久しぶりね・・・』




そう微笑んだ雪美は僕の心を鷲掴みにしてしまう・・・。




動悸がして、心拍数が格段に上がった。




『どうしたの?』 そう言いながら雪美は笑いながら僕の瞳を見つめる。




『いや、変わらないなと思って・・・』




『そう?』




クスクス笑いながら雪美は自分の鞄の中から携帯を取り出してマナーモードにしている。




『邪魔されたくないからね』




そう言って携帯をそっと鞄の中に戻した。




『っで、今日は近況報告?逢いたいって・・・どうしたの?』




上目遣いで僕の心を甘く転がして遊んでいるようにも見える猫のような目。




クルクルと大きくなって悪戯好きのように好奇心むき出しで僕の次を待っている。




『・・・近況報告・・・なのかな・・・』




そう言ってさっきまで彼女が座っていた後部座席から紙袋を引き寄せる。




中に入っているのはあの本だ・・・。




『これ・・私が・・・』




雪美が本を指差して不思議そうに瞳の色を変えた。




『返そうと思って・・・』




『え?』 




どうして?そんな意味が込められた雪美の声を僕は手で制する




『ちょっと待って・・・話すから・・・でも、ここに来てもまだ整理ができなくて・・・言いたいことはたくさんあるのに、ちゃんとうまいこと伝えられるかわからなくて・・・だから、本を持ってきたんだけど・・・』




僕はそう言って雪美の顔を正面から捉えた。