<彼女・12>




男は狡猾だ・・・・いや・・・僕だけが狡い生き物なのかもしれない・・・・




本心はずっと今も隠したままだ・・・・




あれから雪美はまだ旦那と結婚生活を続けている・・・




何事もなかったような顔をして今も嘘をついている。




誰かにその嘘を言いふらすわけではないけれど、その生活が嘘であることを僕は知っている。




そして僕も嘘の生活を続けているんだ・・・・




あれから雪美を思いつつも結婚をしたし、女もいる。




雪美があの日手渡してくれた一冊の本。




『この本を読んで。・・・私が言うのも変なんだけど、カズには幸せな結婚をしてほしいって・・・思ってるの。私のように仮面をつけあった結婚じゃなくって・・・相手のことを思い合って大切にしあえる結婚を・・・だから、この本の主人公を嫌悪してほしいって・・・そう思うの・・・』




寂しげに憂いを帯びた笑顔で雪美はこう言ったのだった。




彼女は優しいけれど、真実を知らないから残酷でもある。




僕がどれだけ彼女を愛しているか知らないのだし、まだ雪美という迷路に迷っていることも知らないだろう。




僕が結婚した女はどこか雪美に似ているのだし・・・作った女も雪美に似ているのだから・・・




今はもう、小説の主人公よりも更に最悪な男になってしまっているんだから・・・・




雪美だけを追い求めて今も生きている自分が滑稽で仕方ないけれど、




どうしても雪美に対する想いを消すことはできない。




でも、それは僕自身が望んだ道なのだから仕方ない。




あの日、雪美が僕と続けようと言ったのなら僕は断っていたかもしれないし、




永遠に別れを決めていたかもしれない・・・




今になってわかることだけれど・・・僕はきっと雪美という女を心の中に閉じ込めたかっただけなのかもしれない・・・・