<彼女・4>
『そうか・・・おめでとう・・・』
この言葉を言うのに、僕はどれだけ心を削ったんだろう。
溜息をついてはいけない・・・。
沈黙を長くしてはいけない・・・。
呼吸を乱してはいけない・・・。
愛しい存在が、自分の目の届かないところで大人になって離れていく。
この時の僕は短くそう応えて、後は何を話したのか憶えていないんだ・・・。
久しぶりに聞いた君の声だったのに・・・・まったく心に残らず、
逆に希望が打ち砕かれてしまった・・・。
だから、どうでもよくなったのかと聞かれたら・・・、
どうなんだろう・・・今でもわからない・・・。
どれだけ君を好きだったのかなんて示すことはできないし・・・、
僕の気持ちに確かさを求められたら・・・、
今の僕に真実なんてどこにもないんだって・・・・、
こんな僕だって君は最初からわかっていて、だから僕を選ばなかったのかもしれないって、
そう思うんだ・・・。
誠実という言葉の意味も理解できない子供のように、
今では妻も愛人も裏切っている有様で・・・・。
今でも君のことが忘れられないだなんて・・・・、
誰に言ったらいいんだろう・・・・。