<彼女・1>
本棚の扉の奥に納められている本の中に彼女から貰った本があった・・・。
薄紫色が表紙のその本は、桜とその花びらが描かれている美しいものだが、その内容は、不倫をしている男の不誠実さが書いてあるものだった。
男には妻と愛人がいて、妻には『愛している』と言いつつも、
夜、会う女にも口からでまかせで『好きだ』と言い、体を重ね合わせている
関係は二年ほど続いているが、本の終盤になっても
どちらか一人を選ぼうとはしない・・・
永遠に二人を騙し、ズルズルと関係は終わらない。
この本の中で一番可哀想なのは妻だと僕は思う。
妻にはなんの決定権もない。
真実を知らされることはなく、本の中で妻は永久に道化師だ。
反対に愛人の方は、妻を裏切っている男の心を手に入れ、
優越感に浸れることだろう。
ただ、ひとときの時間が、一生添い遂げられないとわかっていても、
あの瞬間、妻にはわからない位置から見下げることができるのだと、
本を読んでいてそう感じた。
だが作者は、愛人を嫌な女のようには書いていない。
ただ・・・「なにも知らない妻」という文章から、
書かれていない愛人の感情までが、頭の中に浮かぶのだ・・・。
この本を手にとって、僕に渡す前に彼女はこう言った。
『あなたは・・・・・こんな男にはならないでね』
薄く笑った彼女・・・・・。
あの時の笑みが今の僕を笑っているように感じる。
君は怒るだろうか?
僕がこの本の主人公と同じ状況になっていると知ったら、
君は怒るだろうか?
(彼女・2へつづく)