<~Sorciere~17 紺星



「僕は・・・彼女のことを唯一無二の存在だと思っています。彼女に旦那がいようがいまいが僕には一切関係のないことでした。彼女は彼女・・・独りでないというのなら、僕のせいで独りになってしまってもいいとさえ思っています。それで彼女がすべてを無くしてしまっても、その重みも彼女ですから・・・だから僕と一緒に生きてほしいと言うつもりです。

たとえ、あなたが彼女の新しい恋人だったとしても・・・僕は、それで彼女を諦めるつもりはありません。また、あなたという存在から彼女を奪えばいいとも思っているのですから・・・」



あんなに彼女に嘘をつかれているのだと愕然としたというのに、芯の部分に揺らぎはなかったようである。



自分の気持ちを述べていくうちに、当初の彼女への気持ちも蘇ってきたように感じている。



「君は・・・勘違いが好きなようだ・・・まぁ、仕方のないことだが・・・」



電話の向こう側で薄い微笑を浮かべているのだろうと感じられた台詞だった。



「一度は美智子への気持ちに自信がなくなったように感じられたというのに・・・君は・・・よほど美智子に惚れているのだろうな・・・いいよ・・・・・合格だ・・・・。

急で申し訳ないのだが・・・今からこっちに来れないか?本当の美智子に逢わせてあげよう・・・君が美智子を手に入れたいと願っているのならだが・・・」



この男のどこまでも意味深な言葉に翻弄され続けた僕だった。



でも、それも限界がきている。



このまま、この男が誰なのか知らないまま、しかも新しい恋人かもしれないと疑っている相手に急に来いと言われても何を信じていいのかわからず、即答ができなかった。



「あなたは・・・誰です?」



怖くて今まで聞けなかったことを聞いている自分の声が上擦っているのがわかる。



握りしめた拳は爪が食い込むほど強く握られている。



これほど電話の相手が誰なのか知りたく、そして怖い相手だと思ったことはない・・・



それもこれも僕が彼女のことに対して真剣だからなのかもしれないが、



答えてくれるまでも時間がこんなに長く感じられるなんて思わなかった。



「・・・・・・それも・・・・今ここで言ってしまっては美智子に悪いからね・・・」



「・・・・」



期待していた声が聞けなかったことに落胆したが



それでも落とした肩を元に戻し僕は男に言っていた。



「わかりました。今からそちらに向かいます。教えてくれないということは・・・あなたは美智子がなぜ僕に嘘をついたのか知っているということなんですね・・・・」



「・・・・・・頭も悪くないようだ・・・・それならそろそろ気が付いているのだろう?私が何者ななのか・・・まぁ、いい。着いてから今から言う携帯に電話をくれ。君の携帯番号は美智子の着歴からわかるから大丈夫だ・・・美智子の携帯の今の履歴も削除しておくから心配しなくていい。待っているよ・・・」



そう言い終わって男は電話を切った。



今まで僕から切ろうと思っていた長い電話を、男から切られたことが癪に障ったがしょうがない。



この街から星降る街に着くまで時間はかかる・・・



それまで、あの電話の男が何者なのかゆっくり考えようと頷いたのだった。