<~Sorciere~16 銀扉>
いま、何と言ったのか・・・
この電話で何度、僕は耳を疑ったことだろう。
自分の耳がおかしくなったのかと思ったけれど、男は僕が聞こえなかったのかと思ったのか、同じことを繰り返して耳打ちしてくる。
「え・・・だって美智子は結婚してるでしょう?」
今まで僕がそうだと信じて疑わなかったことを、質問していることがなんだかおかしかった。
彼女がそうだと言ったことだ。まさか違うだなんて思ったこともない。
既婚者だと嘘をつくことに何の意味があるのかわからずに僕は答えをみつけたくて電話へと投げかけたのだった。
「美智子が結婚してない?・・・そんな・・・・」
頭の中が混乱しているのをおさめる術がわからないまま、僕は座った姿勢のまま動けずにいると、
電話の相手はそんな僕を憐れむかのように声を穏やかにしていた。
「あぁ、美智子は一度も結婚はしていない。なぜ君がそういう風に思ったかはわからないが・・・」
「彼女から聞いたんです。私には夫がいますから、と・・・・」間髪入れずにそう言うと、
「それはありえない」とまたしても返答が早い。
しかしきっぱりと言い切った相手は、自分で言い切ったにもかかわらず少し考えている様子だった。
そして僕へと提案してきたのである。
「君に一つ大事なことを聞きたいんだが・・・」
「なんです?」
彼女の全てが明るみにでたわけではない。
何もかもが謎のままである。
しかも電話の主が誰であるのかわからないというのに、頼る先はこの男しかいないのだというジレンマもあった。
僕よりも彼女のことを知っている男・・・
その男は真剣な声で
「君は美智子のことをどう思ってるんだ?わたしのことを美智子の旦那と勘違いして、最初は挑戦するような力強さを持っていたということは・・・わたしから美智子を奪いたいと思ったということなのか?それほど君は美智子のことを真剣に捉えていると思ってもいいのか?不倫をしている・・・その危うさの関係に引きずられて、甘やかな響きに酔い、美智子に固執しているだけでないのか?その真意を問いたい・・・」
なんだろう・・・この重みのある言葉は・・・
でも今はこの男の質問に答えなければならい。
そうしなければ美智子へと続く扉は開くことはないのだ。
僕へと意味のない嘘をついた美智子の真の目的を知るために・・・・
僕の素直な声を、この男に聞いてもらわねばならない・・・。