<~Sorciere~14 蒼壁>
嘘だと思った・・・・いや、思いたかっただけなのかもしれない・・・
僕以外の男など、彼女の体のどこにもそんな存在を確認できなかったのだから。
それでも自分の前に大きな壁が出来上がっているのを認めなければならなかった。
旦那が僕にそんなことを言うメリットは何もないのだし、
あの言葉はきっと美智子自身から聞き出したものなのだろう。
もしかしたら、本当に僕以外の男がいたとして・・・そっちの存在だけを旦那にバラし、
僕の存在については何も語っていないのかもしれない。
それなら、もうこのまま素直に電話を切るべきだ・・・そう思った。
でも、最後の足掻きとでもいおうか、僕は旦那に言ったのである。
「あなたが美智子さんの旦那なら、これからもきっとこういうことは繰り返されるんでしょうね・・・・」
言ったあとでむなしかったが、それでも最後の矢は放つことができただろう。
そう言って電話を切るつもりだったのに・・・またも旦那がその言葉にくらいついてきた。
「だから、君はさっきから何を言ってるんだ・・・」
「・・・何って・・・・・だって、あなたは美智子さんのご主人でしょう?」
「・・・・・・・・・・」
長い沈黙が続き、『もういい、切ろうと』と思い直した瞬間、
受話器から旦那の声が漏れてきた。
「いや・・・・違うが・・・・」
「え?」と今度は僕が聞き返していた
「美智子が何を言っているのか知らないが、私は美智子の旦那でもなんでもないよ。」
「だって、一緒に住んで、この携帯だって・・・」
ハッと思った・・・。携帯にでたといってもこの男が旦那だという確証はない。
そう・・・・そうなのだ・・・。僕が思い込んでいただけなのだ・・・。
なら、この男は一体なんなんだ・・・。
携帯に出ることができて・・・彼女を「美智子」と呼べる男・・・
頭の中でグルグルと考えていることが回っている。
そう思いだしたら、そこから抜け出せないでいる・・・
もしかして、この男は・・・美智子のもう一人の男だというのか・・・
いや正確には彼女は結婚しているのだから、4人目の男ということになるのだが・・・
そんなことがあるのか・・・・
絶望という二文字が僕を支配して雁字搦めにしているのが痛いほどわかる。
もし、この男が第4の男だとしたなら、僕という存在は何だったんだ・・・
美智子・・・・
君は、無意味な結婚生活から逃げ出したくて僕へと走ったんじゃないのか・・・
教えてくれ・・・美智子・・・・。