<~Sorciere~7 赤風>
どうして・・・本当にどうしてなのかわからない・・・
何が起きたのかも理解することが困難だった。
滑り落ちた電話をまた手元に戻すまでに時間がかかり、
自分の手が震えているのがわかった。
体の奥の方にある、君という存在・・・・
それを思い出してもどこに本当の君がいたのかわからなくなっていた。
あの遠い土地で出会った君に惹かれて・・・
声をかけた君が本当の君なのか・・・
それとも、衣擦れの音を響かせたホテルの一室で見せた横顔の君が本当なのか
悲しげで憂いを帯びた瞼に、長いまつげで目配せをされ、
その口元は余裕に満ちていた、美しい人・・・
僕はほんの数分前までそう思っていた・・・
なのに、今の電話で全てがなくなってしまった・・・
いや、正確には僕の思い描いていた君がいなくなってしまったのだ・・・
君は・・・だれ?・・・そして何者なの?
僕にどうして嘘をついたの?
その理由がわからない・・・
見えない君に問いかけても答えはでない・・・
だから、思わず君に逢うために電車に飛び乗ったんだ・・・
硝子の上を渡っている恋なのだと思っていた・・・
君は望んでも手に入らない・・・
きっと何がどう転んでも魔性の君に魅入られた僕は出口を見つけられないまま
このまま堕ちていくだけなのだとそう思っていた・・・
でも、その硝子の上さえも渡っていなかったのだとしたら?
僕だけが何も知らずに生きていたのだと知った時
紅い口紅をつけた唇だけが微妙に歪んで残ってしまっている。
僕の記憶の中の君が間違っているというのなら
真実の君を見つけに行かなければ・・・
今逢いに行かなければ、
きっともう永遠に君に出会うことはないような気がして
それが一番怖くて・・・
僕は君がいる街から流れている風に逆らうように君へと近づこうとしていた。