<~Sorciere~6 緑香>


逢って別れを切り出せるほど僕は強くない


目を瞑り、君が僕の体に染みつかせた香りを思い起こす


コール音が僕の頭の中に木霊して、


それでも君はでない・・・


何かを察知したのか執拗にかけ続けても


君はでない・・・


僕と別れたくない?


ただ・・・そのためにでない?


長期休暇に入るわけでもないのに、連絡を取ろうとした


僕に罰を下すために、携帯を見下ろしているのか・・・


早く・・・早くでてくれ・・・


別れを決心した僕に揺らぎが生じる・・・・


蝋燭の炎のように、吹いたら消えてしまう程の決心だけれども


ちゃんと芯はあるつもりだった・・・


でも、君の香りがその決意を揺がせている・・・


記憶の奥底から、鼻腔に持ちあがってきた香りは


不覚にも僕に携帯を投げつけさせる行動をもたらした。


別れたくない・・・


やはり、別れたくないのだ・・・


君が何者でも・・・たとえ傍に誰かがいる・・・誰かのものだったとしても


それでも僕は君がいい・・・・


確認したかったわけじゃない・・・


こんなことを完全に僕に判らせるために君は携帯にでないのか・・・


だとしたら、どんな抵抗も君には通用しない・・・


はじめから判っていた・・・


君に出会ったときから・・・手ぐすねを引かれたように僕は君に惹きつけられた。


あの、なんともいいようのない甘い瞬間・・・


その時、僕の携帯が鳴った・・・


手にとって君の名前が浮かび上がっている。


でなければ・・・電話をしたことをなんと言い繕えばいいのか・・・


「はい・・・」


眉間に皺を作って、電話をしたことの言い訳を考えようとした瞬間


衝撃から僕は携帯を手から滑り落としていた・・・