<~Sorciere~5 白影>
思い出の中の君は・・・
いつも微笑んでいたような気がする・・・
僕の思い違いではない筈だ・・・・
そんなに頻繁に逢える関係ではなかったから、
僕は君の総てを瞼の裏に焼きつけてしまおうと必死になっていた。
その言葉も笑顔も、細い腰もしなやかな足首も・・・なにもかも
周りの人たちが僕たちの関係を疑う人など存在しない場所での逢瀬は
君を開放し、いつも以上に綺麗にさせていたのかもしれない。
それとも・・・
君が、意識して笑顔だけを見せていたのか・・・
僕の記憶に残る『君』という存在を、ただ美しいだけのものにしたかった?
なぜ?
人はどんなに悲しいことに出会ったとしても、
その中でも美しい出来事だけを切り取って思い出として残していける生き物
その中でもさらに美しい思い出として
君を僕の中に埋め込んでしまいたかった?
なんのために・・・・
うまくいくことのない、
そして生涯、僕とは結ばれないとわかっているから
君の中にも僕という存在を埋め込みたかったのかもしれない。
君が笑顔でいるときは、必ず僕も笑顔なのだから・・・・
そして僕が君に別れを切り出すときは
必ずそんな笑顔でいることはないのだから・・・
だから・・・笑顔でいる君に、僕が別れを切り出せないことを
君は知っていたんだ・・・
君が笑顔でいるのなら・・・
このまま僕は君と繋がっていてもいいと・・・
そう思う僕の弱さを見抜いた、君が仕掛けた「笑顔」という罠
細い透明の飴のような柔らかい繋がりが
誰かの手によって切られる前に・・・・
そう気がついた僕自身から
君という魔女を心の中から消すために・・・
僕は携帯を手にとった。