<恋語り・12 ~動揺~>
俺の心の内側をグイッと掴まれたような衝撃を、今感じた。
優花の涙の意味はわかっている。
その思いに気がついたのは彼女が子供から大人になっていこうとしている時だろうか・・・
彼女の瞳の色に、薄い桜のような色を感じたのは・・・
その思いに気がつかないように・・・
超えないようにしていた関係を自分から遮断するために、俺はこの話をはじめたのかもしれない。
でも、いざ話をはじめて、これで優花と離れなければならないと思った時、
動揺が心の中に湧きあがり、肝心なところで何も言えないでいる自分がいた。
娘と思って育てた女の子が、大輪の花弁をつけた美しい華になったとき、
自分がかつて思いを寄せていた女性にそっくりになったとき、
俺自身から始めた別離の話だったのに・・・
繋がりがなくなるなんて、できるわけがないと思ってしまったのだ・・・
この十何年間、傍にいなかったときなどない。
いるのが当たり前で、彼女の声に姿に似てきた優花を見ているのが幸せで
俺の方がこの幸せを無くすことなど、できないのだと実感してしまっていた。
優花の成長をこの先も・・・結婚も、子供を産むときも、何もかも見て生きていきたい・・・そう思ってしまっていた。
誕生日を祝ってきたように、すべてのことを祝ってやりたい・・・
それを優花は望んでいる・・・
自分の愛の形を否定せずに、俺からの男としての愛情はいらないからと懇願してくる。
それでもいいから傍にいてほしいという。
俺はその言葉に甘えてもいいんだろうか・・・
不安定な心の船の流れ着く先は、この先もこないのだと思っていた。
親娘という関係を持ってしまった時から、この苦しみに出会うこともわかっていた。
優花は彼女にはなり代われないこともわかっている。
でも、優花を見るたびに自分の内側から汚いものが流れていくのがわかるんだ。
たぶん、この話を終えた時、俺自身が後悔するのは目に見えている。
数年、いやもしかしたら近い将来、優花は俺を諦めて違う男と恋をするのだろう。
それを俺は耐えながら見守ることができるんだろうか・・・
優花の結婚と子供を望んでも、そこには違う男の存在があることを無視して
未来ばかりに光を見出しても、そこに俺の居場所はあるのかもわからない。
本当の本当は・・・俺がその現実から逃げだしたくて離れようと思ったのに・・・・
それさえもできない、ただの情けない男なんだ・・・
娘を娘だと思いきれないでいるのは俺自身なのに、
その真実に手を伸ばした時、俺たちの関係が壊れてしまうのではないかと一番怖がったのは俺なんだ。
そして、この手を伸ばして優花を手に入れたとしても、
きっと優花はその美しさゆえに俺からきっと離れていってしまうだろう。
育てた蝶を野に放つべきなのはわかっている。
優花への思いは、ただ彼女に似ているから湧きあがった、間違った感情なのだと、そう心の奥に仕舞い込むことにしよう・・・
何も言わないほうがいい。
この先も何も言わない方がいい・・・・
そして、やはり俺は優花から離れた方がいい。
彼女を傷つけてしまう前に・・・それが、一番いい。