<恋語り・10 ~光陰~>
月日が流れるのは遅いようで早い・・・・
私が写真の中の男女に疑問を抱いたときに、あなたに言った言葉を憶えていますか?
「ねぇ・・・この人たちだぁれぇ?」
子供だった私の言葉にあなたは困ったような顔をして、それでも嘘はつかなかった。
「優花のママとパパだよ」
そう教えてくれた・・・。確かに、その写真の顔を見てみるとあなたが写っている。
「パパとママ・・・そうだね。パパが写ってるもんね」
そう、また私が無邪気に言った言葉にもあなたは困ったように顔を曇らせる。
「・・・この中のパパは、パパじゃないんだ・・・優花の本当のパパだ。ママのことをとっても愛していて、優花のこともとっても愛していた優しいパパだ・・・あぁ、難しいかな・・・もうちょっと大きくなってから話をしよう・・・・・今はまだ早い・・・」
苦笑いをしながらあなたは、写真の中の二人が私の両親だと話してくれた。
子供だと思っているから、そこまで私が疑問に思わないとでも思ったのだろうか・・・
小さくてどんなに子供に見えても、大人が思っている以上に子供は大人へと近づいていっている。
小学生にもなれば、その言葉がどんな意味をもっているのかもわかってしまう。
あなたと私に血のつながり無いことぐらいわかってしまうのだ・・・。
そのモヤモヤとした気持ちを抱えたまま、私は大人への階段を一歩ずつのぼっていった。
『まだ早い・・・』そう言ったあなたの顔が泣いていたように見えたから、それ以上聞いてはいけない気がして、あなたがいいと思うまで待とうとも思った。
あなたが自ら話してくれるまで・・・
でも、思春期を過ぎて・・・疑問は膨らんでいく・・・
パパだけどパパじゃない。私のことを大切に思ってくれているのはわかる。
でも、血が繋がっていないのに・・・どうしてあなたが私のパパ?
本当のパパとこんなにも似ているのに、あなたはパパじゃないと言う。
こんなことを考えていくうちに、だんだんあなたのことが知りたくなっていった。
これがあなたを恋しいと思った一歩かもしれない。
親娘じゃない・・・それなら・・・・
そう思った私の恋心は高校を卒業してから始まっていったのだ。
私と一緒に過ごしていった月日・・・・
そのすべてが愛おしくなって・・・・
二十歳になった今日・・・心の中に仕舞い込んでいた気持ちを伝えようとした矢先に、あなたの方が先手を打ってきた。
夏の風が一瞬、私たちの間をスーッと通り過ぎていく・・・。
まるで、この気持ちを伝えてはいけないのだと言っているようにも思えた。
そしてあなたは語り始める。
「俺に似ているヤツと一緒になったんだ」
夏の告白は、私の気持ちを優しく撫でてはくれなかった・・・。