<恋語り・7 ~追慕~>


「今でも思うよ・・・・あのままヤツに『そうだ。彼女のことが好きなんだ』・・・

そう言っていたらどうなっていたのかなって・・・・・

『やっぱりな』って言ったかもしれない・・・・・そうかもしれないな・・・・」


もう、あなたは涙を拭おうとはしていなかった。


涙でグシャグシャになった顔を私に見せながら・・・あなたは続きを話していく。


「あの夜・・・・俺がどうにもならなくなって独りでいた時・・・不意に携帯に電話が鳴ったんだ・・・ヤツからだった・・・

とうとう、『家に帰ってきたから、明日にでもお前の彼女を連れてこい』って言われるのかと思って、出るのが憂鬱だったけれど、出ないわけにいかない・・・

すると、ヤツの携帯からのはずなのに、声がヤツじゃないんだ・・・・

一瞬、間違い電話かと思って切ろうとしたけれど・・・・電話の相手は切らせてはくれなかった・・・・」


「誰・・・・だったの?」


話が核心部分に迫っているとわかった私の掌に、汗がびっしりと湧いて出ていた。


じっとりと嫌な汗・・・・そして握った拳は震えている・・・


あなたは話を先に進める前に、一呼吸置いて私の反応を見ている・・・


それがわかったから・・・私は思わずあなたに話をするように促してしまったのだ。


「それは・・・・誰?」


「・・・・・警察からだった・・・・。君も感づいていると思うけれど・・・・ヤツと彼女は・・・・事故に遭ってしまったんだ・・・・。

警察官から電話で聞いても信じられなくて・・・何かの間違いじゃないかって・・・

今、話してる携帯だって、ヤツが落として警察に届けられているだけじゃないかって・・・車だって・・・・盗難されたのかもしれないし・・・嘘だって・・・そう言っても・・・

彼女の携帯に電話をしたら、同じ警察官がでてしまったんだ・・・

事故に遭ったって聞いても・・・信じられなくて・・・でも病院はどこですか?って尋ねたら、すんなりと教えてくれた・・・。とにかく来てほしいと・・・

俺に電話をしてきたのは、発着信履歴が一番多く、夫婦揃って番号登録をしてあったからだそうだ・・・

とにかく、急いで病院まで・・・旅行先の病院だから住所を聞いて、夜の高速をぶっ飛ばして行った。

とにかく三人とも無事ならそれでいい。

怪我をしていて、こっちの方には帰ってくることは難しいとしても、治療して治るんだから大丈夫だって・・・

そう思いながら、不安を一気に払拭させて、車を走らせた。

だが・・・着いてみると・・・俺が通されたのは病室ではなく・・・

暗い、湿ったような白い壁ばかりの・・・霊安室だった・・・・・

あの時の喪失感ったらない・・・・大事なものを一気になくしてしまった俺は頭がどうにかなったんじゃないかってぐらいに泣き叫んだ。

揺り動かしても、どうやったって起きてくれない二人に俺は何度も何度も「どうして・・・どうして」って・・・・

傍にいた警察官が話してくれた言葉を理解できたのは・・・2時間が過ぎたあたりからだろうか・・・

警察は俺がそうなるってわかっていたから・・・・あの時の電話で全てを話さなかったんだ。ただ来てほしいって言っただけで、言ってしまっていたらきっと俺はここに到着することができないぐらいに精神が病んでしまうと思ったからかもしれない・・・

それは警察の判断が正しいのだけれど・・・まさか、二人とも死んでしまったなんて・・・そんなこと受け入れられるわけがない・・・

放心状態のまま・・・俺は霊安室で二人の亡骸を前にして、ずっと念仏のように何かを必死に唱えていたような気がする・・・」


いけない・・・聞いてはいけない・・・そう思ったのに・・・・


「・・・何を・・・・?」


話してくれた内容に衝撃を覚えながらも私は、口から一言漏らしていた。


あなたの言葉こそが、あなたを過去から離さない呪文だとわかっていたから・・・。


だから聞いてみたかったのかもしれない・・・・。