<恋語り・5 ~傷心~>
「もしかして・・・あいつのことが好きなのか?
・・・・・そう言われたのは・・・ヤツの娘が生れて4年の月日が経った時だった・・・
『そんなことあるわけないだろう?』っていうセリフがうまく言えたかなんて憶えていない・・・。自分の気持ちに蓋をしたつもりが、ヤツにそう思わせてしまったのかと思うと、自分の行動に腹が立った・・・
どうして、彼女を忘れられないのか・・・どうして、彼女しかダメなのか・・・
頭で簡単に解決できる問題なら、こんなに何年も悩んでいない・・・
このまま流れに任せて、ヤツに本当の気持ちを言ってしまおうか・・・
いや・・・ダメだ・・・彼女に会えなくなるなんて耐えられそうもない・・・・
たとえ、『お前の親友』でもいいから彼女に拘っていたいんだ・・・そんな小さな望みさえも捨てなければならないほど、俺の気持ちはいけないものなのか・・・
心の中で自分の気持ちと格闘して、導き出した答えが・・・・悟られないための嘘だった・・・」
「嘘・・・・?」
私の口から反復されて出た言葉に、さらにあなたは崩れるように肩を落とした。
両手で顔を覆い、深いため息とともに唇が歪んでいるのがわかった。
泣いてるの?
後悔している・・・あなたは親友に言った嘘に後悔している・・・
それとも・・・彼女に気持ちを伝えなかったことを後悔している?
まさか・・・その嘘を今も吐いていなければならないことに後悔している?
永遠に吐き続けなければならない嘘を・・・あなたは自分から言ってしまったのだから・・・
「ちゃんと結婚を考えている女ぐらいいるさ・・・
今まで思ったこともないような嘘がスラスラと口から出てきて、その時は自分でもびっくりした。
役者にでもなったような感覚で、どこかで聞いたようなセリフで・・・
この嘘なら、少しのあいだ凌げれるだろうって思ったんだ・・・
バカだろう?・・・あんなことになるなんて思ってもなかったから・・・
俺はずっとその嘘を抱えたまま生きている・・・
誰にも何も言えないまま・・・・
今、初めて君に言ったんだ・・・・
自分でも愚か過ぎると思ったけれど、その嘘が一番都合がよかったのも事実だった・・・
実際にはいない恋人・・・結婚を前提に付き合ってる女なんているわけがないから・・・ヤツにあわせる段階になるちょっと前に、つまらないことで喧嘩して別れたと言えばいい・・・。
そう簡単に思っていた・・・
そしたら、ヤツが彼女に言ったんだろうなぁ・・・・
彼女・・・嬉しそうに『休暇の旅行から帰ってきたら、その人と会わせてね』って言ってきた・・・
本当に今まで俺が見てきた彼女の笑顔の中で一番極上の笑顔だった。
本当に俺の行く末を案じていて、結婚という幸福に出会えて良かったと祝福している笑顔だった。
皮肉なもので・・・俺が一番見たいと望んだ笑顔は、俺の嘘で連れてきてしまったんだ。
心の中に穴があき・・・でもそんなことで打ちひしがれている場合ではなかった。
だって、ヤツと彼女の休暇の家族旅行がすんでしまったら、いもしない彼女を見せなければならないのだから・・・
慌てたね・・・もうつぎの休みが来なければいいと思った・・・このまま永遠に・・・
今まで思いもしなかったのに、初めて彼らの旅行が長引けばいいのにと思ったんだ」
目を閉じたあなたは・・・まるでその時の光景を瞼の裏に映し出して見ているかのようだった・・・。
終わらない・・・あなたの後悔が・・・終わりに近づくのはいつのことなのか・・・
それは、この話の終着点に待っていることも私にはわかっていた。