<恋語り・2 ~追思~>
「俺とヤツと・・・どちらが先に声をかけたのかなんて忘れてしまったよ。
・・・でも覚えているのは俺が先に彼女を見つけたということ・・・。
二人で寄った店でだろうか・・・。
名前は違うのに、俺と一緒の顔をして、話もうまくて・・・一緒にいても楽しくて、俺もヤツのことを友人で良かったと思えるほどで・・・顔も声も身長も似ていて・・・でも俺じゃないヤツ・・・。女の好みも似ていて、いいなと頷ける女は全部一緒だった・・・。
だから、嫌な予感はあったんだ・・・。
彼女を見た瞬間にヤツには会わせたくないと思った・・・・。
でもそんなことできるわけもなく・・・同じ日に出会ってしまったんだ。
俺と俺に似たヤツと・・・そして彼女・・・」
ここまでを話してあなたは・・・またも言葉を選んでいる。
そんなにつらいのなら話さなくても・・・
またも言う私に、首を横に振るあなた・・・・
「すまない・・・大丈夫だよ。
それよりも君には聞いていてほしいんだ・・・。
ヤツはそれまでの女関係をキレイにして・・・彼女と付き合いだしたんだ・・・。
それまでのヤツとは別人のようで・・・女であんなに変われるのかと思ったよ・・・。
それだけヤツは彼女に本気だったのだろう。
だから・・・俺は彼女への思いを断とうと思えたのかもしれない。
自分で自分の気持ちに蓋をしたんだよ、俺は・・・。
認めたくなかったのかもしれない。彼女が俺を選ばなかったことを・・・。似ている俺たちのことを、やっと俺個人とヤツとに分けた彼女のことを・・・。彼女が選ばなかったんじゃない。俺が選ばなかったんだ!って・・・。
つまらない自尊心に拍車をかけて・・・俺は、彼女への気持ちをなかったことにしたんだ。
手にしたかった美しい蝶を、みすみすヤツに手渡したようなもんさ・・・」
吐き捨てるようにそう言ったあなたは愛しい女性を蝶にたとえた。
いえ・・・・そんなあなたの方が、今は傷ついた羽を持った蝶のようで・・・
私でなくても良かったのだろう。
これ以上、ひとりで心の闇を彷徨いたくなくて・・・・
ただ・・・羽を休めたいところが欲しかっただけなのだ・・・・
あなたを好きな私の瞳の色を嗅ぎ取って・・・
傷を癒したかっただけなのだ。
終わらない夜のあなたの話が、新たに私に傷をつけると知っていて・・・
甘く優しく傷をつけていくものだから・・・
だからその甘さに酔った私は、
そのまま麻痺したまま、あなたの話に耳を傾けたのだった。