<恋慕・8>
彼女に言わなきゃいけないことがある。
彼女に訊かなきゃいけないことがある。
それが僕の思いすごしであるのなら、どんなにいいかしれない。
僕がこれから彼女を訪れて話してしまうことを
彼女が笑ってすませてくれるなら、僕はこれからも彼女を愛していけると思うんだ。
でも、本当はもう既にタイムリミットが近づいている事も知っている。
「主人と別れるの・・・・ついさっき彼に離婚届を渡したわ」
電話で連絡を受けたのが1週間前の金曜日。
その次の日には「実家にいるから」と話をしてくれた。
子供にもご両親にも話してあって、離婚する方向でしか考えていないのだと
僕が両手を広げて喜ぶことを彼女は携帯の向こう側で話してくれた。
でもね・・・
僕にはわかってるんだ。本当はわかってるんだ。
だから、僕が彼女を助けてあげなきゃいけない。
このまま深い海の底に落ちていくような、
そんな悲しい現実を彼女に与えてはいけない。
たとえそれで僕が彼女を失くしてしまったとしても
僕は彼女の笑顔が好きだから・・・
このまま彼女が真実を言わずにいたとしたら、
きっと僕が好きな彼女の笑顔は二度と見ることはできないと思うから。
だから今日、僕は彼女の家に来たんだ。
何も連絡もせずに来たのは、意表をついたほうが彼女の真実が見れるような気がして。
できれば早い方がいいから・・・
彼女や、彼女のご主人が決心して取り返しのつかないことにならないうちに
僕は彼女に逢わなければならないんだ。
電車を降りて駅から出ると、そこは僕の知らない街が広がっている。
パソコンで検索した地図と照らし合わせて彼女の家を探そうとした時、
偶然にも向こう側の道を彼女が歩いているのが目に入ったのだった。
声を掛けようか一瞬悩んだのだけれど、きっとご主人に逢うのだろうと
不思議にもこの時、1mmもぶれない予感があった。
確実に逢ってしまう。
そして・・・きっとご主人が決めたことを訊きに行くのだ。
だからこっそり後を尾けた。
電車に乗ってもわからないように隣の車両に身を隠した。
そして彼女に気がつかれないように喫茶店にも入ることができたし、
彼女の後姿とご主人の顔が見れる位置に席に着いたのだ。
僕が思ったとおりご主人は彼女に離婚届を渡しに来たのだった。
何やら話はしているようだが、まさか聞こえるわけがない。
そうこうしているうちに彼女を置いてご主人が席を立って彼女を愛おしそうに見つめている。
その視線の絡み合いが物語っているもの・・・
それは、知りたくはなかった彼女とご主人の8年間という重みなのだった。
黙ったまま数秒間だけど、その短い間に8年間が流れている。
わかってはいた。
僕が二人の間に割って入ることなどできないということは・・・
なぜなら・・・
彼女はまだご主人のことを愛しているのだから・・・・・
恋慕い、自分のものになったのだと喜んだのも束の間
本当の本当は、何一つ手に入れていなかったのだという現実が
すぐ傍に息をひそめて隠れていたのを見つけてしまったということ。
その愛おしい彼女の背中が語っている心の声。
僕はその声を聞いて、そして彼女を助けてあげなくてはいけない。
それが、唯一僕ができる彼女に対する愛情の示し方なのかもしれない。
僕の心に降る見えない涙は、もう彼女の背中を押す準備はできている。
彼女に言わなきゃいけないことがある。
彼女に訊かなきゃいけないことがある。
それが僕の思いすごしであるのなら、どんなにいいかしれない。
僕がこれから彼女を訪れて話してしまうことを
彼女が笑ってすませてくれるなら、僕はこれからも彼女を愛していけると思うんだ。
でも、本当はもう既にタイムリミットが近づいている事も知っている。
「主人と別れるの・・・・ついさっき彼に離婚届を渡したわ」
電話で連絡を受けたのが1週間前の金曜日。
その次の日には「実家にいるから」と話をしてくれた。
子供にもご両親にも話してあって、離婚する方向でしか考えていないのだと
僕が両手を広げて喜ぶことを彼女は携帯の向こう側で話してくれた。
でもね・・・
僕にはわかってるんだ。本当はわかってるんだ。
だから、僕が彼女を助けてあげなきゃいけない。
このまま深い海の底に落ちていくような、
そんな悲しい現実を彼女に与えてはいけない。
たとえそれで僕が彼女を失くしてしまったとしても
僕は彼女の笑顔が好きだから・・・
このまま彼女が真実を言わずにいたとしたら、
きっと僕が好きな彼女の笑顔は二度と見ることはできないと思うから。
だから今日、僕は彼女の家に来たんだ。
何も連絡もせずに来たのは、意表をついたほうが彼女の真実が見れるような気がして。
できれば早い方がいいから・・・
彼女や、彼女のご主人が決心して取り返しのつかないことにならないうちに
僕は彼女に逢わなければならないんだ。
電車を降りて駅から出ると、そこは僕の知らない街が広がっている。
パソコンで検索した地図と照らし合わせて彼女の家を探そうとした時、
偶然にも向こう側の道を彼女が歩いているのが目に入ったのだった。
声を掛けようか一瞬悩んだのだけれど、きっとご主人に逢うのだろうと
不思議にもこの時、1mmもぶれない予感があった。
確実に逢ってしまう。
そして・・・きっとご主人が決めたことを訊きに行くのだ。
だからこっそり後を尾けた。
電車に乗ってもわからないように隣の車両に身を隠した。
そして彼女に気がつかれないように喫茶店にも入ることができたし、
彼女の後姿とご主人の顔が見れる位置に席に着いたのだ。
僕が思ったとおりご主人は彼女に離婚届を渡しに来たのだった。
何やら話はしているようだが、まさか聞こえるわけがない。
そうこうしているうちに彼女を置いてご主人が席を立って彼女を愛おしそうに見つめている。
その視線の絡み合いが物語っているもの・・・
それは、知りたくはなかった彼女とご主人の8年間という重みなのだった。
黙ったまま数秒間だけど、その短い間に8年間が流れている。
わかってはいた。
僕が二人の間に割って入ることなどできないということは・・・
なぜなら・・・
彼女はまだご主人のことを愛しているのだから・・・・・
恋慕い、自分のものになったのだと喜んだのも束の間
本当の本当は、何一つ手に入れていなかったのだという現実が
すぐ傍に息をひそめて隠れていたのを見つけてしまったということ。
その愛おしい彼女の背中が語っている心の声。
僕はその声を聞いて、そして彼女を助けてあげなくてはいけない。
それが、唯一僕ができる彼女に対する愛情の示し方なのかもしれない。
僕の心に降る見えない涙は、もう彼女の背中を押す準備はできている。