<恋慕・4>

君を奪えたらいいのに・・・。

僕の口から出てしまった言葉が君の運命を変えてしまったんだろうか。

そう思ったら余計に君を愛おしく感じたんだ。

僕はおかしいだろうか?

君を大切にしないご主人を恨んで、

そんなに君が辛くなるような日々を過ごさせているのなら

僕のところにきたらいいって本気でそう思った。

君とご主人が積み重ねた時間を簡単に崩してしまおうって・・・

そんなことができるわけがないのに、

君を失いたくないから想いをぶつけた。

そんな僕の前で君はただ首を横に振ったんだ。

「私みたいな女はよしたほうがいい。あなたにはもっと可愛い娘が似合っているわ」

そう言って僕に背中を向け遠ざかっていく。

その背中に嘘があることを見抜くのに時間がかかり、

追いかけ、角を曲がった先にいた君が涙を流しているのに絶句したんだ。

「嘘はつかなくていいから」

君の気持ちを確信して、僕は君をそっと抱き寄せる。

その温もりに安堵して、これから君の心の重荷を取り去ることだけを考えた。

僕と気持ちを通わせた君が背負うすべて。

ご主人へと抱いてしまう「うしろめたい」という感情。

子供に対しては、ただ「申し訳ない」という思いしかないのだろう。

ただ、僕とのことに溺れて何も感じることがない女だったとしたら

僕もこんなに君に対して強い想いを抱かなかったかもしれない。

だからこそ、君を大切にしたいと思うんだ。

「愛はない」、と言い切る不毛な結婚生活を続けるくらいなら・・・

「これからも愛する自信がある」

と言い切れる僕と一緒になった方が楽しいということ。

だが、どんなに僕が甘い言葉を囁いても、

君が僕のところに来ることに躊躇いを見せているのには理由があることも知っている。

そう、それは君が僕を想うのと同じくらいの強さで子供のことも考えているから・・・

僕へと逃げだしたい思いを持てば、

子供の顔を見るたびに苦しみ、胸が締め付けられるんだよね。

僕が君の子供のことで何も言わないから・・・

だから君は苦しむんだ。

わかってる・・・

そんなに簡単にはいかないこと。

君の苦しみが、まるで自分のことのように心へと真っ直ぐに響くんだ。

だから僕は君の心の奥に届く言葉を放った。

君を獲得するための僕の純粋な思い。

今まで思っていてもなかなか口に出して言うことができなかった魔法の言葉。

「君の子供なら僕は愛することができる。僕と道を同じくしてくれるなら、あの子は君とご主人の子供じゃない、僕と君の子供になるんだ」

そう言った僕の前で大粒の涙を浮かべる君。

「それがどういうことか、わかって言っているの?」

わかってる。

「あなたは・・・私の子供も一度に引き受けてしまうことになるのよ」

あぁ、わかってるよ。

君が愛していて、そして君の事を愛している者から君を奪うことはできないんだ。

なら、君の子供が僕を受け入れてくれなくても

僕は君と共にその子と一緒に生きていこうと思う。

君のことを最後まで愛し抜かなかったご主人に子供のことを任せることはできないんだ。

君にとって大切な子供なら、それは僕にとっても宝物といってもいい。

だから、本当に真剣に僕との事を考えてくれないか・・・

ご主人との離婚は茨の道を進むのと同じくらい辛いものになるかもしれない。

でも、忘れないでくれ・・・

その先にあるのは、決して君を苦しめるものはないのだということ。

僕は待っている。

君を恋慕って後悔などしたことは一度もない。

君と君の子供を迎い入れる覚悟は、

君を愛した時にできていたのだから・・・