< 比翼連理 >

尊くない命などあるわけがない。

僕の命。君の命。誰かの命。

その一つ一つが重なって交わる時、新しい命が生まれる。

君がこの世界に生まれてきたこと、大袈裟なことじゃなくてそういうことなんだ。

君が同じ世代に生まれてきてくれたことへの感謝は何にすればいいのかな?

やっぱり、君のお父さんとお母さんだろうか?

何かの拍子で変わっていたかもしれない時間の歯車。

僕が生まれた時間と君が生まれた時間が少しでもズレていたなら・・・

僕たちはきっと出会えていなかったね。

君が輝いて生きてきた人生の中に僕が入れることへの幸福感。

君も今の僕と同じように感じてくれているだろうか。

お互いの人生が終局を迎えるその時まで僕は君のそばにいたい。

そう思って君にプロポーズをした。

そんな僕の言葉に君は涙を浮かべて応えてくれた。

死が二人を別つまで・・・

そう約束した。

今でも思い出される君の微笑みの数々。

万華鏡のように煌めく人生の中で君が一番輝いた日。

雪のように白いドレスを身に纏い、一歩一歩僕の元へと近づいてくる君。

この赤い道はこれまで君が一人で生きてきた道のよう。

その道を乗り越え僕と出会い、今度は二人で生きていく道があの十字架の向こう側にある。

そう信じて疑わなかった。

「教会で式を挙げたいの。」

そう笑顔で話していた君の笑顔が昨日のように思い出されるよ。

あの時僕たちはこれから起こりうる現実を知ることはできなかった。

でも後悔はしていないんだ。

君の体に巣食う病魔が何であったにせよ、

僕達はこれから神に誓った誓いを守ることができるのだから。

欲を言えば・・・僅か過ぎる時間がもう少し長かったなら・・・

二人がともに生きた時間。

それは短くても濃密な愛の時間。

君は小さくても確かな声で僕に「ごめんね」と言う。

でも、何に謝ることがあるのだろう。

僕は君と生きたいと望み、君も僕と生きることを望んだ。

ただそれだけのこと。

他にどんな選択肢があったというのだろう?

僕は君の人生のすべてを欲しいと願ったのだし・・・

君の死によってその僕の望みは叶えられるのだから。

君がいないと砂漠のように干からびた世界になってしまうのに・・・、

君の『すべて』を望んだ瞬間から、

君の死が『君のすべて』を連れてくるという大きな間違いに、

僕はきっと君の命が無くなってしまったときに気がつくのだろう。

それはものすごく悲しい現実。

そう、そうだね。

だから、そんな君を亡くしてしまう僕に、君の残り僅かな時間をあずけてくれないか。

君がたとえ僕よりも先に命を終えようとも、

たとえそれがどんなに早く訪れようとも・・・

僕はきみのそばにいたいから。

そして、その命の終わりの瞬間を迎えたとしても、

僕の体の中には君が巣をつくり僕は君と一つになって生きていくことができるのだから。
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比翼連理・・・男女の情愛の、深くむつまじいことのたとえ。
     「比翼」は比翼の鳥のことで、雌雄それぞれ目と翼が一つずつで、常に一体と
     なって飛ぶという想像上の鳥。「連理」は連理の枝のことで、根元は別々の二
     本の木で幹や枝が途中でくっついて、木理が連なっているもののこと。
     
     goo 辞書参照