3月5日と、3月11日の真ん中の日に。





私の携帯電話に
まだ残ったままのメモリー


もう鳴ることはない着信音
もう表示されない電話番号
もう返信の来ないアドレス


今、電話をかけても
「現在、使われておりません」
仮に、メールしても
「アドレスが見あたりません」


もう…
使いようがないんだ
本当は
わかっているんだ
そんなこと


でもね
消したらね
本当の本当に
ここからいなくなってしまうから
本当の本当に
消えてしまうから


それにね
もう来ないとわかっていても
やっぱり
着信を待ってしまうから


あれから今までも、これからも
生きているって
心の中に生きているって
思いたいんだ
伝えたいんだ


そう


ふいに思い出すのはしかたなくても
できるのなら
無理やり思い出すことはしたくない
これ以上の悲しみなんてないから


その人にしかわかり得ないもの
自分の中に生まれたもの
ほんのひとかけらだけでもいい
それを
体のどこかにそっと残しておけばいい


きっとそこから
また歩き出せる
何かが見つかる
どこにでも行ける


私は
そうすることに決めた




大切な人
大切なもの
大切な場所


かけがえのない宝物が
消えてなくなってしまっても


その記憶は
そこへの愛は
消さなくていい
そのままでいい


「わかるよ。」
なんて、とても言えない


でも
痛みに寄り添うことはできるよ
そっとね


心の中に
小さくとも確かなものが
そこにあれば





私にできるのは、これくらいしかないから…
そっと、残します。