成人向けの小説温泉文学を見ていこう。汽車の中で、向かい 側の席に坐った美しい少女を眺めながら、快楽の印の人差指の匂いを嗅いでいる男。これが成人向けの小説であり、間違っても健全な青少年に名文、美文の例として推奨されるべきものではないことは明らかだろう。何しろ島村は、妻子を持ちながら、越後湯沢の温泉宿の、旦那持ちの芸者と遊ぶために通うという"遊び人"の主人公にほかならないのである。この時点では、まだ「指の匂い」が、女の「髪の毛」の匂いであることは明かされていない。