私は、市の視察役人に間違えられたのか、やはりこの湯に浸かる年齢には達していないのだろう。
わたしが信州のいくつかの温泉の話しをはじめると、湯の中で人を見かけた。

ピンときて、わたしは車を止め、その人を呼び止めた。
振り返りざま怪認そうにわたしを見る。

歳の頃は70前後か。
風呂から上がったばかりと思われるほてった肌は、ツヤツヤしている。

「あの、この近くに共同浴場があるのですか?」。

なんだこいつは、というような目つきで見られても、ひるんでいる場合ではないのだ。

「いえ、その、温泉が大好きなものでして……」。

温泉という言葉に多少は警戒心をやわらげたのか、後方を指差し、
「その奥にあるけんど、村のもんでな」。

その老人によると、鍵がかかっていて、土地者でないと入れないとのことだ。