-さあ!続いて紅組からは、国民的アイドルの大海恵さんです!-
「あ!ほらガッシュ!清麿!恵よ!早く早くー!」
ティオは2人をテレビの前に呼び寄せた。
「あ、コラガッシュ、ティオ、もう少しテレビから離れてみろよ。」
清麿はテレビの前ではしゃぐ2人に声をかける。
今日は大晦日だ。テレビに映る恵は生放送で有名な歌番組に出演している。この番組は年を越す数分前まで行われる。恵の出番自体は早く終わっても仕事の“お付き合い“ということで直ぐにこちらに向かうのは難しいとのことだった。
そのためティオは清麿の家に預けられたのだ。
-
「ティオ、ガッシュ、眠いなら布団敷くか?」
「うーん……」
「うぬぅ……」
日付が変わってから10分ほど経った。普段はもっと早い時間に寝ている2人は重い瞼を上げることもままならない状態であった。ごしごしと目を擦っている。
「だって…恵が電話してくれるって言ってたんだもん…“あけましておめでとう“って…また来年も言えるかわからないし…」
ティオのセリフに清麿はハッとした。
(いつ終わるか、いつ別れるかわからないこの戦いで…ティオは恵さんとの時間を大切にしたいんだな。)
ポンとティオの頭の上に手を乗せる。
「わかった。恵さんと電話できたら寝よう。」
「うん…!」
ティオは嬉しそうに微笑んだ。
眠そうなティオと既にほぼ寝ているガッシュを隣に、清麿も恵からの電話を正月特有の豪勢な番組を眺めながら待つことにした。
-今年は丑年ですねー!ということで!本日は牛の衣装を見に纏った妄想娘さん達に来てもらいました〜!-
スタジオには胸を強調したような、大胆な衣装を見に纏った女性達が姿を表した。
清麿も男である。思わず胸元に目がいってしまうのは仕方ないのだ。
その画面を見たティオが眠そうにしながらも話し出した。
「本当はね、恵も、こういう服着てテレビに出演しないかって話があったのよ」
「なに!?恵さんもか!?」
ティオの突然の発言に清麿は目を丸くする。
(恵さんが….この牛の格好…?………って!いやいやいや!!!何考えてんだよ、オレは!?)
清麿は少し想像しかけて慌てて頭を振った。
そのタイミングを見計らったかのように高嶺家の電話が鳴り響く。
「あ!きっと恵だわ!!清麿!早く早く!」
ティオはぴょんっと立ち上がり、清麿とガッシュの腕を引っ張る。
突然起こされたガッシュは目を丸くして
「な、なんなのだ!?」
と騒いでいる。
清麿はティオに腕を引かれたまま電話機の前に立ち受話器を手に持った。
「はい。高嶺です。」
『あ。清麿くん?えっと、恵です。ティオは…寝ちゃったかな?』
「いや、恵さんからの電話を待ってたんだ。今変わるよ」
そういうと清麿はティオに受話器を手渡した。
ティオは嬉しそうに受話器を握りしめ、念願かなってようやく新年の挨拶を交わせたようだ。
続いてガッシュもティオから受話器を受け取ると眠たそうに目を擦りながらもしっかりと挨拶を済ませたようだった。ガッシュが清麿に受話器を渡すと、リビングから華が顔をのぞかせた。
「ガッシュちゃん達は私が連れて行くから、清麿もちゃんと恵さんと挨拶するのよ。ここから聞こえるかしら…恵さん?あけましておめでとう、今年もうちの清麿をよろしくお願いします。明日楽しみにしてるわねー」
ニヤニヤとからかう表情を浮かべた華は遠くから話す。
「なっ!よ、余計なことを…!」
清麿の顔はどんどんと赤くなって行く。
『あっ!あけましておめでとうございます!こちらこそよろしくお願いします。』
恵も出来るだけ聞こえるようにマイク越しに声をかけた。
恵の声が聞こえたのか、華は嬉しそうに微笑んでは2人を連れて2階へ上がって行った。
何となく気恥ずかしい空気が流れた清麿はごほんと一つ咳払いをした。
「その、スマナイ恵さん…騒がしくなった…」
『フフ、いいのよ。…清麿くん、改めまして、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!』
恵のかしこまった挨拶に、電話越しにも関わらず清麿は姿勢を正して
「あけましておめでとう。こ、こちらこそ、よろしくお願いします。」
普段は仲間として。あるいは友人として接していた分改めて敬語を使うことに笑ってしまった2人だった。
そこからはお互いに身の回りにあった話を夢中になって話し込んでいた。
「……それじゃ、また明日。いや、後でになるのか?」
『うん、そうね…!また後でね?おやすみなさい』
「おやすみ」
小一時間ほど話し込んでしまっていたことに清麿は時計を見て初めて気がついた。
「寝て起きたら…また会えるもんな」
清麿は嬉しそうに1人そう呟いた。
その日清麿は夢を見た。目の前には何やらステージがあり、そのステージは緞帳で遮られている。
「何だここは。」
ゆっくりとステージの幕が上がって行く。
その中心に立つのは恵だった。………例の牛の格好をした。
「んなっ!?えっ!?め、恵さん!?」
刺激的な姿をした恵は少し照れたように頰を染めて舞台から降りてきた。
「清麿くん、どうかな?」
「どどどど、どうって…その…えっと…」
あまりの出来事に目のやり場に困った清麿は思わず俯いた。そんな清麿に追い討ちをかけるように恵がとんでもない発言をした。
「…ね、乳搾り体験、してみる?」
「はっ…!?えっ……恵さん!?」
何か取り返しのつかないことになると思った清麿は慌てて顔を上げてこの状況にツッコミを入れようとした。
「恵さんがこんなこと言うわけないだろ、誰…が…っ」
清麿が顔を上げると恵が胸元の開いた服を利用して更に両手で胸を寄せた姿が目に入った。清麿は顔を真っ赤にして硬直した。
「…ね?みんなには内緒だよ?」
恵は寄せていた手を自身の口元に持っていき、人差し指を立てた。
そして、反対側の手で清麿の手を取り、胸元へ持っていこうとする。
(い、いいいいいのか!?で、でも…ここまでさせて断るのも悪い……のか!?)
清麿は今の状態を言い訳にくらくらと働かなくなった脳を置いてけぼりにしてそのまま流されるままに恵の胸に触れようと手を伸ばす。
後数センチで触れるといったところで、耳元からガッシュの声が響き渡る。
「清麿ぉー!!!」
「うおわぁああ!ち、違う!まだ触っていない!」
清麿は叫びながら飛び起きた。はあはあと息を乱した清麿は慌てて周りを見渡し、ここが現実だと確認すると安心しつつ少し残念そうにつぶやいた。
「ゆ、夢か…なんだったんだ…」
そんな清麿の様子にガッシュとティオは驚いた表情を浮かべている。そして無垢な表情を浮かべたティオが清麿のパジャマの裾をつかんで聞いた。
「ねえ、清麿。何をまだ触ってないの?」
「え゛っ…い、いや…!なんでないんだ。」
清麿は誰が見てもわかるほど動揺したような口調で答えた。
清麿の様子に腑に落ちないような顔をしていた2人だったがそんなことより伝えたいことがあったと思い出すと今度はぐいぐいと清麿の腕を引っ張った。
「清麿!清麿!早く行くのだ!お祭りなのだー!」
「そうよ!恵と初詣に行けなくなっちゃうじゃない!」
「今何時だ?」
慌てて清麿はそばにある目覚まし時計を手に取った。
「…!まずい!!」
(寝る前にあんな番組見るからこうなるんだ…っ!)
清麿は慌てて出かける準備を進めた。
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神社には参拝のために多くの人が列をなしている。
「ぬぅ…恵はどこにおるのだ清麿?」
「この人じゃあなあ…簡単には見つからないかもしれないな…。まあ、お袋から携帯借りて来てるから、最悪コレで連絡をとればいいだろう」
清麿が華から預かった携帯を開くとティオが声を上げた。
「あ!恵ー!!」
ぶんぶんと手を振るティオの見る方向をガッシュと清麿は目で追った。
視線の先にはいつものサングラスに、コートを身にまとった女性が立っている。口元には優しい笑みが見られ、変装しているとはいえ周りの人もちらちらと恵の姿をみていた。
「よかった。すごい人だから携帯に連絡入れようと思ってたところなの。」
「オレも今かけようとしてたところだったんだ。」
2人は同じことを考えてたと笑い合っているとティオが恵のコートをくいっと引っ張った。
「恵!あけましておめでとう!」
そして続いてガッシュもティオの隣に立ち
「あけましておめでとうなのだー!」
ニコニコと笑う2人に恵は微笑み
「うん、あけましておめでとうございます」
と返した。やはり電話越しではなく直接言いたかったようだ。
清麿も微笑ましい光景を横で見ていたが、自分も挨拶しておこうと続いて話そうとした。
しかし恵が先に口を開いた。
「ふふっ…清麿くん昨日はありがとうね?少し無理させちゃったかな?」
「えっ…?」
「少し、眠そうだったから…」
恵は昨日1時間ほど話し込んでしまったことを言っているようだったが清麿の脳内には夢でみた姿の恵が浮かんでいた。
慌てて首を振ってその記憶を飛ばしつつ否定した。
「いいいいや!?だ、大丈夫だ、問題ない!」
「「「清麿?(くん?)」」」
清麿の反応に3人は首を傾げていたが、何やら神社内で正月の出し物が始まったようで騒がしくなってきた。
「ほほほら!なんか始まったみたいだぞ!」
半ば強制的に清麿は3人をその騒がれている場所へ連れて行った。
「ヌ!牛さんなのだ!」
「わぁー!大きい!」
人だかりであまり見えないがガッシュとティオは清麿に抱き上げられながらその中心を眺めた。
『さあ、乳搾り体験をしたい方ー!』
係の人が手を挙げてイベントを進行させている。
「ちっ…乳搾り体験っ…!?」
対する清麿は夢の恵のことをまた思い出してしまい顔を真っ赤に火照らせては俯いた。
その姿をみた恵は
(清麿くんも男の子なのね………)
と、年相応の反応を見せる清麿だと違う意味で捉え思わず口元が緩んでいた。
清麿はこの日牛を見るたびに反応し、恵にこの夢のことはバレてはならないと必死になっていたが、対する恵はずっといつもなら見れない清麿の姿に思わずにやけていたのであった。