「恵ぃー、このプリントに書いてるのって何?」

ティオが恵のカバンから覗く華やかな用紙を手に取る。

「それは文化祭っていって…そうね…文字通りお祭りみたいな感じね」

「恵の学校でお祭りをやるの?」

「ええ、そうよ。みんなでお店をやったりいろんなイベントを開いたりするの!」

「へええー!楽しそう!……ねえこれは?」

ティオが指さす先には男女が仲睦まじくのっているイラストがあり、題名には

”【写真部よりお知らせ】ベストカップルコンテスト!参加者募集!文化祭に参加された方の中でおススメの写真をご用意ください。”

と記されている。

流石は女の子、そういうものには目ざとく反応するティオに恵は笑みを浮かべて話した。

「それはね、文化祭に来た人たちの中で誰が一番仲がいい写真を撮れるかってのを競うイベントよ。勿論、ティオとガッシュくんも応募できるわよ」

「なっ!!なんでガッシュがでてくるのよー!そういう恵だって清麿と参加したいんじゃないの?」

「えっ………」

ここで恵は想像した。ベストカップルに選ばれるというより、一緒に文化祭を周る姿だ。

そこまで考えると恵は少し頬を赤らめ、口元には笑みを浮かべながら

「そう…ね、よく考えてみたら清麿くんも中学生だし、高校の見学として遊びに来てもらうのもいいかもしれないわ…」

「じゃあ明日、ガッシュと清麿を誘ってみる!」

「よろしくね、ティオ」

 2人はそれぞれの思惑を胸に抱き、にっこりと笑い合った。

 

 

 

 

 

秋も色濃く、制服が冬服に変わった清麿はいつもの道を歩いていた。

正面から金色の髪をした少年が走ってくる。

「きーよーまーろぉおおお!!!」

ガッシュだ。急用なのか全力疾走で走ってくる。

「どうしたガッシュ!…まさか魔物か!?」

いつもとは違う様子に清麿はぐっと気を引き締めてガッシュに駆け寄った。

「清麿!ブンカサイに行くのだ!」

ガッシュの手にはチケットが握られている。

「……は?文化祭?」

最悪の状況を想像していただけあって清麿は呆気にとられた。

清麿はほっと気を緩めると、ガッシュの手に握られたチケットを見た。

「それで、なんで文化祭なんだ?」

「ここにはのう!ブリの料理がたくさん並ぶのだ!」

「ブリの料理が並ぶ文化祭…?そんなもん聞いたことねえぞ…そもそもコレ、どうしたんだよ。」

 「ティオがくれたのだ!恵の学校の文化祭なのだ!」

「なっ!?恵さんの学校のだと!?」

バッと清麿はガッシュの手にあるチケットを奪った。

「い、いいのか?俺ら一般人が……」

清麿は膝下で騒いでいるガッシュを無視して、まじまじとチケットを見つめながら帰路を歩き出した。

 

 

 

 次の日

 「…ということで、将来のためにも君たちには高校の文化祭に行き、感想をまとめて提出するように」

先生が黒板に提出期限を書く。

(ちょうどよかった。恵さんの高校というのは伏せて書けばいいか)

清麿は頬杖をつき、昨日貰ったチケットを思い浮かべ、黒板を眺めていた。

 

授業終了のチャイムが鳴ると早速鈴芽が清麿の席に駆け寄った。

「高嶺くん!高嶺くんはどこの学校の文化祭に行くの?」

「ん?あー…まあちょっとな…知り合いの…」

ここまで言いかけると鈴芽を押し除けるように金山が清麿の机をバンっと叩いた。

「高嶺ぇ!ここ!この高校いくぞ!」

金山は学校のパンフレットらしきものを机の上に置いた。

「槌之孤学園…?」

清麿は首を傾げながらパンフレットを読んだ。

「この学校はな!ツチノコの研究も進めているんだぜ!」

「つ、…ツチノコ!?」

また訳のわからない学校を見つけたものだと清麿は苦笑いを浮かべる。

「いーや!高嶺、オレとこの文化祭に行くぞ!」

今度は山中だ。

「野球部が強いんだってよ!なんてったって毎回甲子園に出てるんだぜ!」

「…まあ、予想はしていたが…」

清麿は自分の机の上に積まれていくパンフレットを見ながらはあ、とため息をついた。

「高嶺君。僕とこの高校を見に行こうよ。UFO、宇宙人、宇宙に関する全ての研究に特化しているんだ」

「だぁぁあっ!わかった、わかったから少し纏めさせろ!」

何やら3人は清麿を自分の行きたい文化祭に連れて行くようだ。清麿はノートを開き簡単なスケジュールを企てた。

すると、おずおずと鈴芽が話す。

「あのね、高嶺くん…わ、私も一緒に…」

話をしようとしていたところを金山に邪魔されたところから見ていたマリ子が鈴芽の肩をぽんと叩いて寄ってきた。

「高嶺くん、スズメと私も一緒に行っていいかな、気になるし」

「どうせならみんなで全部回らねえか?」

「そうだな!」

「お、お前ら…これ全部1日で回るつもりじゃないだろうな……?」

ノートから恐る恐る顔を上げた清麿は皆に問うた。

「何言ってんだよ、文化祭ってのは大体2日やるだろ?2日間かけてまわりゃあいいじゃねえか!」

皆はその意見に同意のようで特に反論はしなかった。…清麿を除いては。

「そ、それは困る…」

小声で清麿はつぶやいた。

鈴芽はそんな清麿の様子に違和感を感じ、問うた。

「高嶺くん、何か用事でもあるの?」

「2日目は午前だけでもいいか?午後は…と、友達の高校を観に行く約束なんだ。」

「なんだよ高嶺、高校生の友達なんかいるのか?」

「ま、まあな…」

何となく、話すのが恥ずかしくなった清麿は目線をノートへ向けた。

「だったら私たちも一緒に回るわよ」

「いや、私立で関係者のみしか入れないんだ。」

「随分と厳しい学校だな、普通中学生は関係者とか関係なしに入れるのにな」

「ま、まあ…色々あるんだよ、色々、な……。それよりお前らの出した高校、距離を考えると……」

(これ以上話を続けて墓穴を掘りでもしたら……後が面倒くさい。)

清麿は金山の発言にギクリと反応し、自身と恵の関係を探るクラスメイトを想像した。焦るようにノートを皆に見せては、話題を変えた。

 

 

 

当日

午前もクラスメイトと文化祭を回ったこと(主に暴走する彼らをとめること)で酷く疲弊していた清麿は、ふらふらと恵の学校へ向かっていた。

しかし何故か一緒にいたはずのガッシュは打って変わって元気だ。

 「ティオー!」

「あ!ガッシュ、清麿!こっちこっちー!」

高校の門の前にティオが立って手を振っている。

「早く早く!チケット出して!」

 「あ、ああ……ティオ、恵さんは?」

清麿はティオの元へ着くと急かされるままポッケからチケットを取り出し、一枚をガッシュに手渡す。

「恵はね!清麿達が来るまでクラスの出し物の手伝いしてるって!早速行きましょ!」

「行くのだー!」

「あっ!おい!」

2人にぐいぐいと引っ張られて清麿は門をくぐった。

 

「…で、恵のクラスは喫茶店なの!」

「ヌ!そこがブリのあるお店なのだな!」

「だからなんでそうなるのよ……」

ティオは呆れた表情を浮かべ、腕を組み横目でガッシュを見る。

「喫茶店か…恵さんはやっぱり料理を作る方の担当なのか?」

「うん!午前なんか恵の作るサンドイッチが美味しいって大好評だったのよ!ちゃんと清麿とガッシュの分は残してあるから安心して!」

「やったのだ!楽しみだのう!」

「ああ、そうだな」

ふと周りを歩く学生を見ると制服以外にもクラスTシャツを着た者や、別の喫茶店の出し物をしているクラスではメイド服を着ている姿が目に止まる。

(恵さんも、流石にウェイターではないだろうからあの服はないだろうけど、あんな風に過ごしてるのかな?)

清麿はぼーっと周りを眺めながら様々な恵の姿を思い浮かべた。

するとティオが教室の前で立ち止まった。

「ここよ!恵のクラス!さ、入って入って!」

「ちょ、おいティオ…!」

清麿とガッシュはティオに背中を押されながら教室の入り口をくぐった。

すると1人の女性が声をかけてくる。

「あ、ティオちゃんお帰り!…と、その子たちがお友達?」

高校生のその女性はニヤニヤとガッシュと清麿を見ながら話す。

男子中学生が恵に会いに来ている。しかも何やらプライベートな関係。たったそれだけでも。

芸能人の大海恵のスキャンダルというより、クラスの友達の彼氏が来た。そんな物珍しさで女子高生は盛り上がってしまうのだ。

対する清麿は恵以外の多くの女子高生の視線を集めることに慣れておらず困惑した表情を浮かべていた。

「うん!恵は?」

「今呼んでくるね!お友達もごゆっくり」

にっこりと笑いかけ恵のクラスメイトは教室奥へと向かった。

「ど、どうも」

「ありがとうなのだー!」

「ティオ、今のは恵さんのクラスの友達か?」

「うん!恵を芸能人扱いしないからとても話しやすいって恵が言ってたわ!」

「恵にも清麿のように良い友達がたくさんおるのだな!」

そのセリフに清麿も先ほどまで一緒にいた友人を思い浮かべては微笑み、ティオも嬉しそうに頷いた。

「清麿くん、ガッシュくん、いらっしゃい!ごめんね待たせちゃって…」

奥から恵が出てくる。制服姿だ。強いて言うならいつもと違うのは首から兎のぬいぐるみのような財布をさげている。

いつもと違う姿が見れるのではと少しだけ期待していた清麿は少し気落ちしてしまった。

「恵ー!早くみんなでまわりましょ!」

ティオは恵の元へ駆け寄ると急かすように恵の手を取る。

「コラ、ティオ…走らないの!………って…清麿くん?ちょっと元気ないようにみえるわ…少しここで休んでからいきましょう」

「えっ!」

清麿は驚いた。

「さ、ここに座って!午前中で売れ切れちゃったサンドイッチを持ってくるわ」

恵に促されるまま清麿たちは席に座る。

「あ、ああ…ありがとう」

「うぬ!ありがとうなのだ!」

「もー…清麿!疲れてるんだったら最初に言ってよね!大丈夫?」

「まあ、午前中も他の学校見に行ったりしていたからな…それに昼飯もまだロクにとってない状態だったし…」

清麿は疲れたことへの多くの理由を述べた。そして無意識に疑問に感じたことを口に出していた。

「それでも、何故恵さんはオレが疲れてることに気が付いたんだ…?」

「それはね、清麿くんの顔が暗くなってたからよ。はい、ガッシュくんにはティオの作ったサンドイッチよ」

後ろから恵がサンドイッチを両手に持ち、現れる。

「ヌ!すごいのだ!ブリの匂いがするのだ!」

「ちゃんと味わって食べるのよ!それにしても本当、…恵はよく清麿の顔みてるわね〜」

ニヤニヤとからかう表情を浮かべたティオは、先ほどまで飲んでいたジュースを手にしていた。

「もうティオ…そういうのじゃないわよ。はい、清麿くん、疲れてるのに来てくれてありがとう」

恵は頬を赤らめ恥ずかし気に話しながら清麿の前にサンドイッチを置くと向かいの席に座った。

「ありがとう恵さん、いや、そこまで疲れてるわけじゃないんだ。むしろ気を使わせてしまってスマナイ…」

「そうなの?ならいいけど……」

ティオは腑に落ちないといった表情でジュースのストローを口にしながら話す。

「そういえば、恵さん。ティオに案内されてここまで来る時にクラスTシャツを着ていたり、制服以外の服装の人を多く見かけたが…基本服装は自由なのか?」

清麿は気落ちした理由を述べることはどうしてもできなかった。しかし、それとなく聞くことにした。

そんな質問が飛んでくるとは思わなかったのか今度は恵が驚いた声を出した。

「えっ……!え、ええ…文化祭の時は基本自由よ」

「そういえば恵、朝はTシャツだったわよね?どうしたの?」

ティオが追い打ちをかけるように質問した。

恵の顔はみるみる赤くなっていった。

(制服で、清麿君と学校内を歩きたかったなんて言えるわけないじゃない……)

恵は憧れであった校内デートをそのまま話すことはできなかった。

「えっとね、料理してたら調味料を服にこぼしちゃって……」

苦し紛れに恵は嘘をついた。しかし、頬を染めることとその内容が一致していたおかげかティオがため息をついた。

「もー!恵ったらそそっかしいんだから!」

恵はほっと息をつき、何とかこの場を切り抜けた。

 そしてその後、雑談を交えながらガッシュと清麿はサンドイッチを堪能した。

 

清麿達が食べ終わり、少し休憩が取れた事を確認すると、恵は立ち上がり手を合わせて提案をする。それに合わせて清麿達も席から腰を上げた。

「さて、と!清麿くん、案内するわ」

「ええっ!?い、いいのか!?でも流石にずっとオレらといるのをみられるのはマズいんじゃあ…」

(大人気アイドルと…文化祭を周る………!?い、いいのか!?)

清麿は申し訳なさそうにしていると恵は清麿に近づき、そっと腕を引き寄せた。

そして上目遣いに告げた。

「一緒に回りたいと言っても…ダメ、かな?」

その姿とセリフに清麿の胸は高鳴り、狼狽えながらも答えていた。

「えっ…ああ…いや、その、…オレで良ければ…」

 「フフ、よかった!じゃあ、まずは~」

恵は清麿の腕を離さずに嬉しそうな表情を浮かべて校内マップを見せる。

「め、恵さん……!」

腕を組まれたままなことに、清麿は一層慌てた。

「ん?なぁに?」

清麿が何に対して狼狽てるのか理解していた恵はより一層腕を自身に寄せた。

そんな状態になって清麿はボンッと音がするほど顔を赤らめたが、何となくここで断り続けたら勿体無い気がして声はどんどん小さくなりながら

「い、いや…何でもない…」

と答えた。

清麿は恵の距離に自分の心臓の音が相手にバレないことを祈るばかりであった。

 



 

いくつか校内を回ると、高校という中学とはまた違った環境に、今まで見てきた高校ではゆっくり見れなかった分、清麿は心を惹かれていた。

「へえ、この数式も高校で習うのか……」

「ええっ!?清麿くんコレ、わかるの?」

「えっ、ああ、まあ…前読んだ本に載ってたから…」

「凄いわ、清麿くん!」

恵の尊敬の眼差しに、清麿は照れくさそうに空いた手で頰をかいた。

「清麿ー!みるのだ!」

いつのまにかガッシュとティオは次の教室へ向かっていた。

「たくさんの魚の写真があるのだ!きっとここはお魚屋さんなのだ!ブリはあるかのう……」

目をキラキラとさせてガッシュは教室の入り口に立っている。

 「だから何度も言ってるだろ、文化祭に魚屋はない。」

清麿は呆れた顔で話す。

「ここは、写真部ね。今年は海や川の生物を題材にしてるみたい。」

恵はクスクスと笑った。

「ぬぅ…食べれぬのか……」

しょんぼりと落ち込むガッシュに清麿は頭に手をポンと乗せて話す。

「ほら、ガッシュ。こういうものはあのシェミラ像の時みたいに芸術品として楽しむもんなんだよ」

「うぬぅ………私は写真よりも、あのシェミラ像よりも本物のブリが良いのだ………」

「まだ、ガッシュには早かったな」

「本っ当、食い意地だけは一人前なんだから!」

「でも、ガッシュくんらしくていいじゃない」

4人はそんな会話をしながら写真部の部室に入った。

中には水族館のように沢山の海洋生物の写真が並んでおり、清麿と恵は同時に感嘆の声を発していた。

「結構すごいな」

「本当ね、綺麗………あ、ねえねえ、清麿くん、この魚、なんとなくティオに似ていない?」

恵は清麿の腕を軽く引く。ここまでずっと腕を組みながら歩いていた2人。慣れてきた2人はお互いに自然な流れで写真の前に立つ。

「本当だ。そうするとこっちにいるのはなんかガッシュみたいだな」

「本当ね!フフっ……!、この写真でも遊んでるみたい!」

恵は先ほどのガッシュとティオの遊ぶ風景を思い出し楽しそうに笑う。

そんな姿を目の前でみている清麿もつられて顔が緩む。

(恵さん、すごくリラックスしてるんだな。考えてみれば、今日の恵さんはアイドルとして笑う"大海恵"でもない、オレらと一緒に戦う仲間の"大海恵"でもない。ただ一人の高校生の女の子って感じだ。………そうだ。モチノキ遊園地で見た笑顔と一緒だ。隣にいる事ができて嬉しい。)




清麿がそんなことを思っているとガッシュの声が耳に入った。

「ぬぉおお…ティオ!次は私にやらせてほしいのだ!私もカメラを使ってみたいのだ!!」

「んもー!待ちなさいよ!今すっごくいいのが撮れたんだから!」

ティオとガッシュが写真部のカメラを取り合いだしてしまっている。

「やめなさい!ティオ!借り物なんだから大切にしなさい!」

恵は清麿の腕から離れ、カメラの取り合いをしている二人の元へ向かっていった。

清麿は温もりがなくなって少し寒くなってしまった腕を寂しく思いながらも恵の後を追った。

「ガッシュ!そういうものは大切に扱わないとだな…!」

 

清麿と恵に止められてガッシュとティオはようやく離れた。

「ほら、ティオ、ちゃんと謝ってきなさい。」

「ガッシュ、お前もだぞ。」

「はあい…」

「わかったのだ…」

しっかりと絞られた二人はとぼとぼと写真部の生徒に謝りに行った。

その背中は沢山の戦いを生き抜いてきた魔物の子とは遠く離れた、実際の子供と変わらぬ姿に清麿と恵は少し笑ってしまった。

「っ…フフっ…清麿くん肩が震えてるわよ?」

「そういう恵さんだって……ああしてる方があいつらにはいいよな」

「そうね、ずっと。こんな風に。平和にあの子達と生活していきたいわ。」

それは無理な話だ。それは二人ともわかっていたがお互いに口にすることはなかった。

 

ガッシュとティオが2人の元に戻ると、清麿達が腕を組んでいないことにティオは気づいた。

(えええー!折角いい感じだったのに!)

ティオは怒られた事と目の前の事実に、より一層落ち込んでしまった。

そんな姿を見た恵は、くすりと笑ってティオと同じ目線になった。

「ちゃんと謝れたから、ティオがずっと食べたがってた綿飴、買いに行きましょうか!」

「え!本当!?」

ティオはパァアっと顔を明るくさせた。

「ガッシュくんも、私がCM担当してる関係でブリバーガーの出張店舗があるんだけど…食べに行く?」

恵はガッシュの顔を覗き込む。

「ヌ!ブリバーガーがあるのか!?食べたいのだ!」

ガッシュは両手を上げて喜んだ。

「ハハハ…単純な奴らだな…、ありがとう恵さん」

「2人とも元気になったみたいでよかった」

恵はそう言いながら立ち上がる。

「早く行くのだー!」

「ガッシュ!綿飴が先なんだからね!」

ティオとガッシュは楽しそうに教室を出ていく。

しかし、清麿は歩かずに一点を見つめていた。

動かない清麿に疑問を抱いた恵は思わず振り返った。

「清麿くん?」

声をかけられると清麿は肩をびくりとさせて、早口に答えた。

「い、いや、何でもない」

恵は清麿の視線の先を見て嬉しそうに微笑むとそっと清麿の隣に立ち、清麿の手先を軽く握った。

「早く行かないと。ガッシュくん達が待ってるわ」

「っ…う、うん……」

清麿は顔を真っ赤にしながら、待っていた手の温もりを逃さないようにぎこちない動きで恵の手を握り返した。

 

 

 -

「ごめんね、本当は校門まで送りたいんだけど……記者の人がいると面倒だから………」

「いや、大丈夫だよ」

教室の前でガッシュを背負った清麿とティオを背負った恵が話す。

「結局、綿飴とブリバーガーを食べたら二人ともぐっすり寝ちゃったわね」

「本当、ガッシュも朝からオレと一緒に回ったはずなのに、よく疲れないなとは思ってたんだけど…たまにこうして突然電池が切れたみたいに寝るんだよな」

「フフ、小さい子ってそうよね……それに清麿くんも他の高校みてからここに来たのよね。今日は来てくれてありがとう」

「いや。他の高校よりじっくり見れて楽しめたよ。オレの方こそ誘ってくれてありがとう」

「本当?また来年も来てくれたら嬉しいな」

恵は下からのぞき込むような形で清麿を見つめる。

「う、うん…!もちろん行くよ!」

清麿は頬を染め照れくさそうに答えた。

「じゃあ、またね!」

「ああ、また。」

恵はティオを背負っているため手を振ることはできなかったが笑顔で清麿を送った。

清麿はその帰路をガッシュを背負っているにも関わらず軽い足取りで歩いて行った。

 -

清麿が校舎を出て、校門に向かう途中、上から声がする。

「清麿くーん!またねー!」

「め、恵さん!?」

恵のその姿はクラスTシャツだった。

(か、かわいい…)

清麿はガッシュを落とさないよう、片手を挙げて答えた。

(今日はいろんな姿の恵さんが見れてよかった……って!!!オレは何を考えてるんだよ!)

清麿は心の中にある感情にツッコミを入れつつ、今日の楽しかった思い出を脳内で思い返しながら帰った。

 

 

 

 

 

「ねー!恵!カバン見せて!」

ここ最近ずっとこうだ。ティオは私が学校から帰るとやたらカバンの中身をチェックしてくる。

「ハイハイ、もう。最近どうしたの?」

ティオは私の質問に答える素振りもなくカバンの中のプリントを一枚一枚読んでいる。

「あっ!!!あったー!」

ティオはお目当ての一枚を手に取ると両手で持ち上げる。

「な、何があったの?」

私はティオの手に握られている紙をのぞき込む。

するとティオは悪い顔を浮かべて話し出した。

「ふっふっふっ…じゃーん!清麿と恵がベストカップルコンテスト優勝だって!」

「………え!?」

私は思わず大声をあげてしまった。

「な、何よこれ~…」

学校新聞の端に小さく乗っている写真。写真部のベストカップルコンテスト……?確かにこれは私と清麿くんだけど…。

「よかったわね!恵!」

ティオはえっへんと胸を張っている。

「こんな写真いつの間に撮られたのかしら…」

背景をじっくりと見る。これは…魚?ってことは…!

「ティオ…?ティオが撮ったのね!?」

「ふふん!そうよ!ほら見てよ!恵ったらこんなにでれーっとして、清麿もこんな表情するのよねえ、びっくりしちゃった」

「うぅ…いくら端の方とはいえ、これは恥ずかしいわ…」

じっくりと写真を見つめてみる。……私いつもこんな顔してるの…?清麿くんも…こんな風に私のこと見てくれてたんだ…

なんだか思い出したら顔に熱が集まるのが分かった。

とりあえず、この写真は大事に取っておこうかな。………いつでも見れるように。

私は大切に紙を机の中に仕舞い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は高校の文化祭の感想文を提出する日だ。後ろの席から前に送るように」

 先生の声にオレは後ろから回ってきた用紙に自分の用紙を重ねて前に回した。

…あの怒涛の文化祭ツアーの感想文を何とか纏め切った。……まあ、ほとんど内容は書けなかったが。

「ほう、高嶺達は随分と回ったんだな」

「オレらは行きたい学校を皆で回ったからな!」

山中が胸を張って答える。

パラパラと先生がオレ達の用紙をめくっている。

「高嶺だけ一校多く回ったんだな。」

「ああ、はい…」

「しかし、この学校だけ、やけにしっかりと書けてるな。ここが志望校なのか?」

「いやっ、そ、そういうわけじゃ…たまたまゆっくり見れただけで……」

オレは恵さんと回った文化祭が一番印象に残っていた。勿論、中には腕を組んだことや手を繋いで回ったことは書いてない。

しかしこのタイミングでその事を思い出してしまい顔が熱くなったのがわかる。

……それにしても″志望校″…か、恵さんとは同じ学校になっても1年しか一緒にはなれないが…時間が合えば……一緒に登下校とか……

そこまで考えてオレは頭を振った。

ななな、何を考えてるんだ!オレと恵さんはそういう関係じゃない!

一人で自問自答していると、いつのまにかクラスは山中の志望校の話に切り替わっていた。

 

-

「ただいまー」

オレが帰宅すると玄関には見知った靴がある。

部屋に入ると案の定ティオとガッシュがバルカンとバルンルンで遊んでいる。

「おお!清麿!おかえりなのだ!」

「おかえりなさい!清麿!」

2人はオレの姿を確認すると寄ってくる。

「今日はね!清麿に良いものをもってきたのよ!」

「ん?いいもの?」

オレが聞き返すと何やら用紙を手にしている。その用紙をティオはずいっとオレに差し出した。

「はい!じゃあ私達は公園に遊びにいってくるね!」

「あ、ああ、気をつけて行ってこいよ。」

2人はどたどたと音を立てて外に遊びに行った。

オレは一先ず受け取った用紙を読むために自分の机に向かった。

「学校…新聞…?」

読んでいくと恵さんの高校で配られる、生徒の手によって作成された新聞のようだ。内容はほとんど文化祭についてであり、オレはじっくりと読み耽っていた。

最後の記事。これだけは黙っていられなかった。

「なっ、何だこれ!いつの間に!?」

オレは思わず立ち上がってしまった。そして記事に書かれている文字をそのまま読んだ。

「べ……ベストカップルコンテスト優…勝?」

写真だけでも相当な情報量だというのに、見出しの文字にオレの顔は絶対に赤くなっている。

「こ、これは恵さんも文化祭の空気に飲まれてて、オレもそれに従っただけで………そういう関係じゃ……」

一人で写真を見ながら言い訳を述べる。

しかし、自然と脳内に言葉が浮かんだ。

--……でも心地がよかった。こちらから目線で求めてしまうほどに。--

「っっ……!」

自分の感情に思わず口元を覆い隠す形となった。

「ただいまーなのだー!!」

バンっと自室の部屋を誰かが開ける。

「うわぁあっ!!!!」

オレは焦って眺めていた用紙を机に叩き込むようにしまった。

「ガ、ガッシュか………」

ゼーゼーと息を乱して顔を赤くしているオレをガッシュは不審そうな目で見てくる。

「ウヌゥ…清麿、どうしたのだ…?」

「い、いや。何でもない。それよりガッシュ、ティオはどうしたんだ?」

「うぬ!公園で遊んでたら丁度恵が来たのだ!そのままティオは恵と帰ったのだ!」

「そうなのか……」

オレはほっと息をついた。まだ、先ほどの自分の感情に向き合うには勇気が足りなく、ガッシュの帰宅に感謝した。

 

その後も、オレは1人で部屋にいる時はその写真を眺めている。