オン・ザ・ロード(1982) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

オン・ザ・ロード
1982年 松竹(製作:ジョイパックフィルム、ムービー・ブラザーズ)
監督:和泉聖治 主演:渡辺裕之、藤島くみ、秋川リサ、室田日出男、山田辰夫

冬眠終わり。ブログ再開です。  

1980年代前半。私が、毎日、大学に行くとともに映画館に通っているような日々を過ごしていた頃の映画の中で、今となっては隠れた一本と言われる作品である。ピンク映画のゲリラ的パワーがまだあった頃、高橋伴明、中村幻児などに続き、この映画の監督、和泉聖治も一般映画へと活躍場所を見出していった。だが、興行的には、寅さんしか売るものがなくなっていた頃の松竹が配給を行い、併映が、何故か大林宣彦の「転校生」という変な状況もあり、あまりパッとしなかった気がする。客のいない封切館で見た記憶がある映画の一本だ。  

その時の映画的な印象といえば、粗雑だが、ストーリーの魅力で徐々に加速がついていく佳作といったところ。ある意味、テンポの悪さが癌だったりもするのだが、今見ると、監督のピンク映画で鍛え上げられたいい意味でアバウトな映画流儀が、パッション優先で封じ込められている感じが何かとても素敵にみえた。  

 渡辺は白バイ警官である。ある日、無謀な運転をする車を追いかけ、途中で出会った藤島のスクーターを引っ掛けてしまう。気になりながらも車を追いかけ帰ってきてから上司(室田)に藤島の状況を聴くが、ただの骨折と聴き一安心する。恋人もいない渡辺は友人と無理なナンパをしたりしていたが、その友人が巡察中に死んでしまったり、いまひとつ生活がしっくりいかない。ある日、街で藤島を見る。彼女は足を悪くしていた。驚いて訪ねるが「二度と来るな」と言われる。彼女はモデルとして大成する夢に敗れていたのだ。真実を知り謝罪しなくてはと思う渡辺。再度訪ねると、彼女は沖縄に帰ったという。藤島は姉(秋川)とともに車で鹿児島まで行って沖縄に帰る道の上にあった。勢いでその車を追いかけ出す渡辺。無視され続けるも、追いかけ、管轄を離れどんどん日本列島を南下していくことになる。警察では彼の帰りを待っていたが、秋川が途中で料金所で渡したメモから、大変なことになっているのを知り、渡辺の確保を本格化。しかし、渡辺はことごとくその追跡を振り払うのだった。そんな中、秋川も渡辺がついてくる意味を知る。徐々に共犯者のように一緒に動き出し、藤島も渡辺に妙な好感を持っていくのだった。九州に抜ける関門橋。警察の検問を突破する協力をしてくれたのはバイクマニアの青年(山田)の暴走だった。見事にそれは渡辺を九州に逃がす。そして、途中で別行動を取ることにした渡辺と藤島。鹿児島には室田も来ていた。ことはマスコミに発表され大事に。藤島は秋川と鹿児島からカーフェリーで沖縄に行くことにする。二人が船に乗った時、渡辺がつく。警察との応戦。そして、渡辺は海にダイブする。救急車に乗せられる渡辺の前で叫び続ける藤島の姿があった。  

日本のロードムービー映画ベストテンなどというもがあったら(そんな数でてこないかもしれないが)必ず入ってくる一本だと思う。そう考えると、職務を振り切って自分のアイデンティティーの回復のために主人公がただ走るという構図は、蔵原惟繕「憎いあんちくしょう」に似ている。多少の影響はあるのだろう。  

 だが、全体的にけしてテンポはよくない。そして、主人公の気持ちも結構、わかりにくい。多分これは、当時の若者気質に内在していた、「自分はこうしたい」とか個性を出すよりも、まずは人生楽しもう的な軽さが影響していると思われる。そう考えると、今の若者がこの映画を見て、主人公や、なぜか最後は共同体になっているヒロイン気持ちがわかるようにも思えないのだが、どうなのでしょうか?

 ロードムービーということで、結構金はかかっている。警察の検問撮影やカーチェイス場面もあり、映画作りとしてはピンク映画とは格段の差があっったはずだが、監督は見事にクリアして一本の佳作を取ったというところだろう。役者的には主人公の新人2人はお世辞にも「上手い」とは言えない。しかし、ラストに近づくにつれ、表情が良くなっていくのは、この映画のいいところである。あと、脇の役者たちもピンク系中心に芸達者がうまく配置され、安っぽさが残りながらも堅実である。  

中でも、関門海峡突破をアシストする山田辰雄の存在感はいい。たぶん、彼にとったら、「狂い咲きサンダーロード」そのままに出てくる感じが、格好良くもあり、すこぶる印象的である。  

最後に、「何故走るのかだんだんわかってきた」という渡辺。そして、その興味もなかった彼に惹かれていく藤島。そこにあるののは若さと、思いの強さ。消して意味などわからないが、わかってくる青春の勢いって感じなのだろうか?そんな感じで、照れもなく青春映画として綺麗に結実してるのも、私的には好きなところである。渡辺裕之という存在を強烈にアピールしながら、映画が綺麗に観客にシンクロしてくるのである。  

これも、DVDにもなっていない一作である。製作会社がジョイパック(現ヒューマックス)だったりすることもあったり、映画の中で「びっこ」という言葉が多く出てくることもあり、いろいろ問題もあるのだろうが、あまり、公開後、話にも出なくなった33年前の佳作である。