横道世之介(2013) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

横道世之介
2013年 ショウゲート(製作:日活、博報堂DYMP、バンダイビジュアル、毎日新聞社、他)
監督:沖田修一 主演:高良健吾、吉高百合子、綾野剛、池松壮亮

吉田修一原作の80年代の大学生の話。何が今と違うかっていえば、携帯もパソコンもでてこないこと。そう、私もこんな空気感はよくわかる。いかに今がせわしいかという感じが…。そんな時代の、いわゆる若者にまだ未来があった時代に、地方からでてきた人ってこんなだったかなという映画である。大きなドラマは特にないのだが、2時間40分という長時間をそれほどあきずにみせてしまうのは、監督の画作りのうまさだったりはする。だが、昔からこういう日本映画を褒めるのってあまり好きではない。よくはできているが、これがおもしろいっていうのは違うと思うからだ。

1980年代の終わり、高良は長崎からでてきて東京の大学に入学した。そして、入学式で池松に話しかけられる。オリエンテーションで女の子(朝倉あき)とあう。彼女とクラブを探していると、池松がサンバサークルにいて、一緒に入ってしまう。故郷の先輩(柄本佑)とホテルであい、モデルの女(伊藤歩)につきあわされる。彼女は高良を利用しただけだったが、高良は惚れてしまう。そして、次の日、どうすればくどけるかを学食であったこともない綾野に、相談するのだった。綾野は迷惑がるが、高良をデートにつき合わせる。そこで、高良は送り迎えに車で来るようなお嬢様の吉高と知り合う。吉高は不思議な高良を気にいり、プールに誘う。そこで伊藤にあう。伊藤は驚く。綾野とは仲良くなるが、彼はゲイで、高良がついてくるのを困るというのだった。吉高は夏休みに長崎についてくる。そこで高良の元彼女を知ったり、難民の子供を助けたり、また高良と近づくが、高良はあまり前に進めなかった。秋になって池松と朝倉は子供が出来て学校までやめてしまう。彼女の出産も彼を変えていく。そして、吉高の親ともあって、また近づいてクリスマス。二人はキスをする。そして、正月、彼女はスキーで骨を折る。二人は好きなのを確認する。そして、吉高はフランスに留学することに。最後に写真を撮ってという。高良が隣人に借りたカメラで初めて撮る写真だった。そして、吉高は「最初にみせてね」といって、バスにのる。

あらすじはこんな感じだが、実際の映画の中では、現在の彼らがパートパートででてくる。そして、高良がカメラマンになって、人を助けようとして電車に轢かれて死んだという事実も語られるが、それはそれである。つまり、あくまでも、この地方から出てきた横道世之介という青年が、名前だけでなく、記憶に残る男だったということである。考えれば、そういう人間というのはそうはいない。そういう意味で、愛される存在として主人公は描かれている。

冒頭、新宿アルタ前、斉藤由貴のAXIAの看板がみえる、部分部分で、CGを使って当時らしさを作っている。こういうCGの使い方はなかなかいいと思う。そして、微妙に昭和のその景色は個人的にもなつかしいし、ダサイ感じが主人公となにかシンクロしている。そう、その時代のダササがなつかしく、私には今を嘆くような感じに映る。

吉高由里子も、存在感がある。まあ「花子とアン」の配役はこの映画の「ごきげんよう」をみて、推薦されたという話があるが、納得はいく。あまりあか抜けないお嬢様が、主人公に同じようなものを感じるのがおもしろい。そして、結果的にふたりがとてもお似合いなのが微笑ましいのがこの映画の空気感の良さなのだろう。正月の病院での吉高は凄く美しい。そう、女に変わる微妙な時間をうまく演じているのだ。

ひとつひとつのエピソードを結構長めのカットで紡いでいく監督の手法は、この映画に関して言えば適切である。そして、なかなか好きな画も多い。だが、監督はこの映画を撮る事で、何がいいたいのだろうか?そのへんがいまひとつ前に出てこないのが不満である。

確かに重要なのは、現在に生きる、池松や朝倉、伊藤や綾野、そして吉高の思いの中にある主人公である。それが、この映画の結論を代弁している。「面白い奴だった」「いい思い出だ」

だけど、彼を殺してしまうこともないのではないか?というか、この事件のモデルは新大久保のあの事故だから、この小説は逆算的に作られたものなのか?あのような救助をする人はどんな人か?というような。そういえば、あの時代の新大久保にはヘイトスピーチなんてなかったよね。

そう考えると、首相が戦争を容認したり、ヘイトスピーチがあったり、簡単に人を物扱いで働かせたり、そんなことがなかった時代はもう4半世紀も前になってしまったのか?とこの映画を見て気付いた私でした。

この映画、原作を読みたくなる作品である。そういう意味では、映画にした意味は小説の宣伝でしかないようにも思う。やはり、原作を大きく映画的に破壊して2時間弱にまとめるのが映画監督として当然の義務のようにも思えるのだ。けして、160分という時間がなければ描けない題材ではないのだから…。


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