永遠の0(2013) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

永遠の0
2013年 東宝(製作:アミューズ、電通、ROBOT、白組、ジェイ・ストーム、他)
監督:山崎貴 主演:岡田准一、三浦春馬、吹石一恵、風吹ジュン、夏八木勲

最初に書いておくが、原作者、百田尚樹氏に関しては、その不愉快な言動や態度に関して、個人的には絶対に接触したくない人物と思っている。Twitterはいつのまにかブロックされている私である。だから、その作品を読む気もないし、あまり興味もない。そんな中、ネットの評価はそこそこに高いこの作品を観た感想を提示する。はっきりいって、作り手がなにをいいたいのかといえば「主人公の祖父は戦争で悲しい目に会い、彼の思いが今に伝わっている」という人間の思いの継承的な部分なのだろう。だから、この映画は戦争映画でもないし、右翼高揚映画でもない、ましてや反戦映画でもないわけだ。戦争の現実を知らない作家が、戦争を題材に書いた青春映画的なものでしかない。そして、その内容は恐ろしく浅い感じがした。そういう意味では、これがヒットして、多くの涙が流れたというような状況は私には全く理解はできない。というか、このくらいの中身にしないと今の観客は解らないという部分もあるのだろうが、はっきりいって語るに足らずというところ。監督、山崎貴も私の期待を裏切らない人で、これからも裏切らないだろう。あえていえば、こういう題材を書くのに戦争を使ってほしくないというところだろうか・・・。

三浦の祖母が死んだ。そこで、母(風吹)の父が祖父(夏八木)ではないということを知る。そして、本当の祖父は特攻隊で死んだということも。姉(吹石)は仕事も絡めそこに興味を持ち、三浦をつれて自分の本当の祖父の戦友をさぐりだし、祖父の事を聴いて回る事にする。すると、皆、祖父(岡田)のことを卑怯者だというのだった。戦闘になると逃げて、機体に傷もつけずに帰って来たと皆が言う。そんな中、ある男(田中泯)のところにいくと、「彼は優秀な戦闘機のり」だといわれ、追い返される。そして、病床の男(橋爪功)はそんな父のことを話してくれた。真珠湾、ミッドウェーと彼と一緒だった当時の橋爪(濱田岳)は彼がひとり、冷静に戦闘のまずさを語っていたという。そして、生き残って家族に会うといっていたというのだった。そして、一度、赤ちゃんの風吹にあったことも教えてくれる。そんな絶対に死なないと言っていた岡田が何故特攻に行ったかが見えてこないのだ。そこで、学徒で特攻兵として岡田に教育を受けた男(山本学)に話を聴く。彼は確かに生きることを考えていて、教習生にもなかなか特攻のGOがでないようにしていたというのだ。だから、学徒の皆からも臆病もの扱いだったが、練習で機をつぶし死んだ戦友を上司からかばったことで、認められていったという。そう、彼はまっすぐな男だったのだ。三浦はさまざまなことがわかり、もう一度、田中に話を聴きに行く。田中は、今度は話をしてくれる。岡田と無理に勝負をしてもらい、簡単に罠にひっかけられた話。そして、終戦近くに再会した時には、岡田の様子は全く変わっていた。そして、自ら特攻に志願したことも聴く。そして、一緒に出陣して途中で不時着した機に岡田がのるはずだったという最後のキーとなる話を聴く。そして、不時着した機に乗っていたのは今の祖父(夏八木)だったことがわかるのだ。夏八木は岡田が機が調子が悪いのを知って乗り換えたということを話す。そして、祖母とのなれそめも。そこには、悲しいが、岡田の熱い思いがあることを知り、三浦は今日を生きるのであった。

まあ、はっきりいって、戦争映画というジャンルで考えれば超駄作であろう。前に私が褒めた「男たちの大和」などとくらべればよくわかるが、60年前と今との接点がうまく結び付いていないから、そこに涙を無理やり流すのは無理である。戦争を金のネタにしたといわれてもしかたないような内容だと私は思う。

まず、戦争がなぜ起こったか?そして、何故に岡田が兵隊になったのかもよく説明されていない。そんなに死ぬのがいやなら戦争には自分からいかないだろうし、この地位にあるという事は、志願兵だった感じなので、まったくもって岡田がここにいる意味がよくわからない。だいたい、太平洋戦争をよくわかっていない若いものたちに向けるなら、岡田がすごした歴史的な状況をちゃんと入れるべきである。たぶん、原作者も、監督もそんなところに興味はないのだろう。全く解っていないのかもしれない。百田氏の叫ぶ話を聴くと、彼の頭の悪さもみえてきて、結果がこれなのかと思わざるを得ない。

そして、この岡田が一番戦争がわかっているかのように(彼が山本五十六であるかのように)「真珠湾に空母がいなかった」とか「ミッドウェーの爆弾と機雷のつけかえに文句を言うとか」「ガダルカナルで戦闘は無理だ」というような描写は彼が未来から来たみたいにも見えてしまう。だいたい、そんなに戦闘に参加しない人物なら、上司からリンチもうけるだろうし、こんな地位にいるわけもない。「兵隊やくざ」みたいに逃亡するのが最も似合っているのだ。

そして、岡田のことを語る戦友たちにも、重みがない。田中泯などは、雰囲気は侠客のようなふるまいだが、いっていることはあまり重くない。彼と若い時を演じる新井浩文もうまくシンクロせず、どうも乗れなかった。若い役者との違和感はすべてのキャストについてあり、濱田と橋爪を同一人物に思えなどということは、あまりにも無理がある。こういうキャスティングをしていること自体が映画をなめているとしか思えない。山崎の映画なのだから、どっちかはCGで作ったら良かったのではないか???

CGつながりでいえば、山崎がもっとも得意としている所だろうが、戦争シーンがあまりにもゲーム感覚で、本当にどうにかしてくれという感じである。円谷英二の「ハワイマレー沖海戦」などとくらべても、あまりにも臨場感がない。まあ、円谷氏をここに出すのは敬意に欠けるといわれそうなレベルである。

最後は、三浦が岡田の特攻を妄想するという感じで映画は終わっているが、そこにむなしさはない。彼が祖父の事をどう思ったかは、見ている方には全く理解できない。途中で、彼が合コンで特攻の話をするシーンがあるが、これもただのTPOがわからない青年になっていて、周囲のバカな若者も含め、観たくないものを見せられたという演出。もう、山崎貴のイカレポンチも高みに上がり、この後で、怖そうな田中泯に「顔が変わった」みたいなことを言われるのは、ちょっとおかしい。私に言わせれば、そんな事言う田中はバカである。(山城新伍のやる役なら理解できるが)

という感じで、もっと細かく見ていけば、ネタがつきない戦争を題材にしたヒューマンコメディなのかもしれないと思われるようなことしか書けないのだ。最後は夏八木が染谷将太だとわかるのだが、そういわれれば、彼をいい位置に入れた構図が多かったとは思った。伏線のようで、そうではないのだが・・・。

とにかく、原作をそんなには変えてはいないのだろうが、脚本がぶざまである。そして、こんな映画が記録を塗り替えるような国は、やはりなにかがおかしくなっている感じである。首相もこの映画を喜んで観たらしいが、今の首相でもよくわかるライトノベルであることは確かである。

はっきりいって、日本映画史から消しても全く問題ない映画です。こう書くと結果、宣伝になるのが今の日本映画でもありますけどね。しかし、山崎貴、作品がヒットするから映画を撮り続けられるんだろうけど、本当につまらん監督ですよね。絶対にゴジラの監督だけはやらせないでね、絶対だよ、東宝さん!

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