いとしい恋人たち(1957) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

いとしい恋人たち
1957年 松竹
監督:番匠義彰 主演:野添ひとみ、石浜朗、杉田弘子、沢村貞子

昨日、松竹時代の野添はネガティブな役が多いと書いたが、この映画なども典型的なもの。最後は好きな人と結ばれるのだが、すっきり喜べない感じは、当時の日本によくある風景といってもいいのかもしれない。番匠監督は、わたし的に言うと「へたくそな監督」なのだが、初期のこのあたりの映画は丁寧に作ってあるということだけは好感が持てる。それ以上ではないが・・。

石浜は金属会社の研究員。野添も同じ会社に勤めていて結婚をしようとしていた。だが、野添は母(沢村)とふたり暮らしで母がまだ嫁にだしたくなかった。石浜は未亡人の義姉(杉田)と住んでおり、杉田も石浜の力になろうとしていた。ある日、放送局に勤める杉田が集めた女性(中川)が石浜の家に流れてくる。石浜は中川に恋愛感について問い詰め、中川は少し憤慨する。中川は野添の家に下宿し夜学に通っていた。そんな夜学の友人(朝丘雪路)は恋人がおり、彼が失業したのでアルサロに勤め、学校をやめる。中川は野添が石浜の恋人と知り、応援しながらも石浜に興味を持ち出す。そして野添を音楽会に誘うが、沢村がひきとめて野添はいくことができなかった。そんな沢村のところに杉田も頼みに行くが埒があかない。石浜が訪ねてくると聞くといなくなってしまう沢村だった。そんな中、石浜は正月に野添と強硬に信州に旅行に行く。帰ってくると沢村は野添に冷たく、飛び出した野添は車にひかれる。そして、それが雪どけを誘うのだった。二人は結婚をすることになり、石浜を思っていた杉田は子供を残し大阪に旅立った。

原作は佐田稲子である。何人かのカップルを登場させ、それぞれの微妙なやりとりをみせていく感じは小説の雰囲気そのままなのだろう。時代の空気と、男女の変わらぬ想いみたいなものを感じさせる。

石浜が勤めているのは「日本特殊鋼株式会社」今はない会社だが、実名でロケ地を提供したのだろう。羽田からでる飛行機がよく見えるから大田区近辺だろうか?大きな工場である。そして、石浜や野添が住んでいるのは世田谷だ。場所がわかるものとして小田急線の豪徳寺の駅のホームがでてくる。杉田が新宿に行こうと子供を誘うシーンもある。小田急線はまだ茶色の時代だ。そして、世田谷線らしき懐かしき風景もでてくる。

でてくる学生がみな夜学の学生だというのも時代なのか?そんな中で杉田はテレビ局に勤めているエリートであるが、それもけして幸せではない感じだ。仕事と幸せは比例しない時代だったのだろう。そして、アルサロに勤めて、怠惰になっていく朝丘の図も傍らの時代の空気をよく表している。そんな朝丘は自分のおっぱいが大きいことを誇りのように語るシーンがある。当時から彼女の胸の大きいのは有名だったことなのだろうか?

そんな中で、野添と石浜の恋愛は一番暗い感じで描かれる。壁になっているのは、母親をひとりにはできないということだけだ。だが、戦争で夫と死に別れた人も多く、こういう問題は当時かなり身近にあった話だろう。けして、みなが沢村を責めない感じでそれは
わかる。

ラストで杉田が石浜を好きだたっという感じはわかるのだが、結果的にはそれは野添の重荷になってしまっているようにも見える。そう、最後に石浜と野添におおきな希望がみえてこないのも時代なのかもしれない。まだ、高度成長期の鳥羽口だが、少し、今の時代に似ている感じを覚えた。現代が新しい時代への転換期であるからだろうか・・・。
いとしい恋人たち (1959年) (角川文庫)/佐多 稲子
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