君を呼ぶ歌(1939) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

君を呼ぶ歌
1939年 東宝
監督:伏水修 主演:月田一郎、椿澄枝、北沢彪、里見藍子、清川虹子

太平洋戦争に突入するちょうど2年前の映画。あまり検閲はされていないのだろうが、かなり国策映画的な臭いがするフィルム。その一方、JOAK,JOBKというNHKラジオが舞台になり、その宣伝の臭いもする。そして、歌のシーンが多い。ある意味、当時の観客はかなり得した気分になったのかもしれない。俳優たちよりも、有名歌手たちの若き日の姿がおがめるのがとても貴重な感じがする。

NHKの演奏会の模様をラジオで放送している。実況しているのは椿の婚約者の北沢であった。椿の隣でラジオを聴いているのは椿の兄(月田)を恋する里見だった。月田は作曲家で歌手。彼を思う歌手の女がいたが、月田は里見が好きだった。歌手と月田をくっつけようとするおせっかいな女(清川)がいて、月田は迷惑がる。そして、椿と北沢の結婚式があるが、その席で里見は北沢と歌手の仲を聴かされ勘違いして式場を逃れ消える。そんな中、式場に、月田への召集の知らせが来る。その場は月田の送別会になってしまう。月田は里見への思いを椿たちに伝え戦地に行く。椿たちは里見を探すが見つからない。椿は絶望のあまり大阪に逃れキャバレーに勤める。そこで月田とつきあっていた歌手にあい、彼女とは関係ないことと月田の出征したことを知る。そんな中、月田は戦地でけがをして日本に送られる。月田が出征する前に兵士たちに聴かせてやりたいと思った歌を演奏する機会が出来、椿がピアノを弾くためにでかけるが、そこに里見がかけつける。里見は約束通り、その曲を弾き事になり、それを知った月田は笑顔で歌うのだった。

月田が出征するところで「出征兵士を送る歌」が合唱される。「~いざ征け つわもの 日本男児♪」という奴だ。そして、ラストは恋が結ばれると同時に歌われるのは兵士をたたえるような歌であり、このあたりは、時代感なのだろう。国が、かなりの意見をしたのか、作り手の意志かはしらないが、べったりに戦争を賛美する臭いがする。

そして、この映画はNHKの全面協力のようで、冒頭の山田耕筰の指揮による演奏会や、大阪での録音風景、そして後楽園球場での実況風景など、当時のラジオがどんな感じでつくられていたか空気がよくわかる。巨人阪神戦は選手がアップにならないのは残念だが、当時の客席の感じが実にめずらしいフィルムだ。

そして、多くの歌手たちが出てくるが、ある意味、これらは特に話の筋には関係なく、客寄せパンダの挿入のようだ。藤山一郎、渡辺はま子、川田晴久など、そうそうたるメンバーの戦前の雄姿がおがめる。特に渡辺はま子のこれだけ若い姿は、私としては初めて見た気がする。

そんな、三つの思いがつながっている感じの映画で、テレビのバラエティ仕掛けの恋模様といったところか?題名の通り、最後は月田の唄が恋人を呼ぶ。まあ、わかりやすい展開でめでたしというところで観客は気持ち良く見終われる映画だ。

兄の恋人を探す椿澄枝という人は「東京ラプソディ」で藤山一郎の恋人をやっていた人だが、その3年後になるこの映画では、かなり大人っぽくなっている。当時の女優さんは、一気に成長したことがよくわかる。

この映画の中で、ただ一人の悪役ともいえる清川虹子だが、テンポのよい芝居はなかなか目立つ。日本映画の中で戦前戦後を通じて顔となっている女優であることを再確認した。

と、戦前の映画には、見る角度でさまざまな思いが脳裏にめぐる。この映画もバックグラウンドの政治状況がなければ生まれなかったフィルムの一本として、残さなければいけないフィルムだと思う。戦争が起これば、恋の話にもそれが壁を作る。そんな社会がまともとは思えない。だから、憲法など変える必要もないし、国防軍など必用もない。こういう映画を見せることが最も反戦になると思う最近の私であります。