闇を横切れ(1959) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

闇を横切れ
1959年 大映
監督:増村保造 主演:川口浩、山村聡、叶順子、滝沢修、高松英雄

どちらかといえば、山本薩夫が好きそうな題材である。地方新聞がやくざと癒着して、殺人事件が闇に葬られようとする話。ストリップシーンなどがでてくるが、あまり女っ気のない話である。結果的には増村はそういうのはあまり得意でないというのがよくわかる。もっとエンターテインメントとして割り切って撮っていたらもう少しテンションのあがる感じになったのではないだろうか?そして、川口が完全な正義の男の感じも、ちょっと違和感がある。

西日本の地方都市。選挙中の候補だった男がホテルでストリッパーを絞め殺す事件が起こる。相手候補(浜村純)は喜ぶ。だが、現場にいた警官(大山健二)は、現場で事件の前に傷のある不審な男に会ったのを思い出す。その思いだすきっかけを作ったのは西部新聞社の若手記者の川口だった。川口は局長の山村を尊敬していた。山村は東京からきて新聞社を大きくした貢献者だった。大山の目撃した男を追う川口だったが、大山が突然消える。背後になにかがあるらしく、結果、彼は死んでしまう。そして、死んだストリッパーの友人(叶)にあうが、彼女は何かに脅えていた。そんな中、この街のヤクザで実力者の滝沢に呼び出される川口。暗に事件から手をひけといわれる。そして滝沢の後ろに汚職があるのを知るのだった。だが、川口は新聞社の懸賞で送られてきたの写真の中に、殺した犯人らしい男が映っているのをみつける。撮ったのは写真屋だったが、川口が追い始めると殺されてしまった。新聞社の中にスパイがいると川口は感づく。川口は殺されたストリッパーの情夫で滝沢の子分の男になぶられながらも叶から重要なメモ帳を受け取り、山村に報告する。殺人事件は選挙をうまく動かすために滝沢がやらせたのだ。だが、山村はメモ帳のことを滝沢に電話していたのだ。スパイは山村だった。そんな中、滝沢は山村が川口を守るのが気に食わずに西部新聞の販売を妨害しだしライバルの東都新聞につくのだった。山村はそれを聴き、自分のやっていたことを認め、全部本当の事を書けと局員に命令する。川口は必死に記事をかき出す。そして締切間近に山村が暴漢に殺されたニュースが入る。川口は線香をあげる前に仕事をしようと記事を必死に書き続けた。

最初と最後に山村聡が口笛で「ラ・マルセイエーズ」を吹くのが印象的である。だが、山村はヤクザについていたわけで、それに裏切られたから、仕返しに記事を書かせたわけだ。そういう意味では革命的な事をしたわけでもなく、ちょっとこの曲は似会わないのではないだろうか?そして、印象的ではあるが、それに力は感じない。

山村が滝沢に情報を流しているのは途中でわかるが、もう少しわかりやすくしてしまって、川口がそれを見破る過程をサスペンスチックに描いた方が面白かったのではないか?何か映画全体に、裏切り的な展開が少ないのだ。

そして、事件の渦中にただ一人いた女が最初に死んでしまい、事件の中で女が重要な役割を演じているわけではないのも、話に幅がない原因か?ストリッパー役の叶がこの映画のヒロインなのだが、やはり弱い。やはり、若尾や野添がからみ男を翻弄するような感じの展開が入らないと増村映画らしくないというのが本当のところだ。

だから、川口浩の演技も、何か空周りを感じるのだ。川口の話相手が山村だけというのも話が単純すぎておもしろみにかける。「巨人と玩具」のような感じでライバル新聞社の記者でもだせばまた違った感じにはなっただろう。そして、最初の発端の選挙がどうなったのか結果も知りたいところではある。

舞台は九州らしいが、ロケはしていない感じだ。地方色もあった方が映画に色がつくと思うのだが、全体的に単調で、増村自体もいまひとつ演出がのりきれていない感じがわかる一篇である。

そして、ここでまたタカラビールが飲まれている。大映は宝酒造と大きなパイプでもあったのだろうか?

今回の増村特集はここまで、まだ若尾、増村コンビは離陸していない感じの時期の六本であるが、映像的にはかなり参考になるようなシーンも多いフィルム群である。初期の増村作品には極端なダメな映画はないので、是非続けてみるのがお勧めというところだ。


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