四つの恋の物語
1947年 東宝
監督:豊田四郎、成瀬巳喜男、山本嘉次郎、衣笠貞之助
主演:池部良、久我美子、木暮実千代、榎本健一、若山セツ子、浜田百合子
サーカス映画の最後はこの映画にした。サーカスを題材にしたのは第四話の衣笠監督が撮ったものである。戦後すぐの小屋の風景がでてくるものである。
この映画、東宝争議が起きた混乱期に撮られたものだ。そのバックグラウンドは勉強不足なので触れないが、4人の監督が、それなりに実験的に何かやろうとしている感じもある。今見ると、結構さまざまな印象を持つ映画である。
(第一話)「初恋」監督:豊田四郎
高校生の池部の家にある日、親戚の娘(久我)がやってくる。最初の日こそ、彼女を泣かせてしまう彼だが、木登りを教えたり、日々仲良くなっていく。そしてはしゃいでるうちにある日、池部は久我の胸をさわってしまう。2人には恋が芽生えていた。そんな二人を心配する母(杉村春子)は、ある日、久我を帰してしまう。久我は池辺にオルゴールを残す。そこには「あえるようになるまであずかっておいてください」と書いてあった。
脚本を黒澤明が書いていて、この映画の評価を見ても、この作品が最もよくできているという意見が多い。とはいえ、たわいない初恋の話である。そして、そのほとんどが池部と久我がじゃれているシーンだ。だが、それが実に初々しくてよい。障子越しの影をとらえたシーンで二人がキスしようとするシーンなど実にほほえましく、その障子のこちら側には杉村が心配しているという画もラストへの暗示をうまく描いている。黒澤がどこまで書きこんだかは知らないが、無駄のない脚本だ。木登りが象徴的にでてくるのだが、久我は本当に木に登っている。意外におてんばさんだったのか?根っから運動神経が良かったのか?気になるところ。この映画、久我のデビュー作である。このころの彼女はふくよかで明るい御嬢さんと言う感じで、アイドルと呼べる雰囲気である。池部も久我も芝居はうまくないが、杉村と父親役の志村喬が二人をしっかりささえていてバランスのいい映画になっている。
(第二話)「別れも愉し」監督:成瀬巳喜男
バーにいる歳のいった男(菅井一郎)はある女(木暮)に恋していた。その女の男(沼崎勳)が別の女を愛して木暮がひとりになったらしい話をする。その向かいの木暮のアパートでは友人が木暮に菅井の話をしている。そんな時に沼田が訪ねてくる。好きな女ができたという話をするが、話している内に二人ともふっきれなくなる。バーには沼田の女(竹下千恵子)が待っていた。木暮は自分から嘘をついて別れるのだった。
後年の成瀬の映画と同じように、ハッピーエンドではない。男も女も、歯に詰まったような感情を残して別れる。沼田もその新しい恋人の竹下もじみなまじめそうな人間にかかれている。住む世界が違うという感じで別れるような状態である。そして、菅井の元に木暮がいくような感じにラストは作ってあるが、木暮の心は違うといった感じで終わる。最後の木暮のアップで語るセリフはそう聞える。もう少し膨らまして、成瀬映画として完成させれば、洒落た映画にしあがった感じもする。バーのマダムがふられるというのは後に撮る「銀座化粧」にシチュェーションが似ている。
(第三話)「恋はやさし」監督:山本嘉次郎
榎本はオペレッタの俳優。彼は同じ劇団の若山に恋していた。その日、若山は故郷に帰るという。榎本は落ち着かず、舞台で失敗ばかりする。彼女は去る時に手袋を落としていく。それを拾い、外を走る列車を見て悲しみにふける榎本だった。しかし、若山が列車に乗り遅れたと言って戻ってくる。2人は笑顔に戻るのだった。
話自体は、あまり深みがある話ではない。エノケンと若山はなかなかいいコンビでほほえましい。舞台はオペレッタ「ボッカチオ」をやっている楽屋である。当時のオペレッタの舞台のフィルムは少なく、その雰囲気がわかる非常に貴重なものになっている。エノケンが舞台で「ベアトリ姐ちゃん」を歌っているのもめずらしい。途中、行商のおばさん(飯田蝶子)が舞台を横切るギャグが入っているが、こういうギャグは実際あったのではないか?ドリフターズの原点はやはりこの当りである気がする。小道具の手袋の使い方はなかなか秀逸で、ラストの画はなかなかですよ
(第四話)「恋のサーカス」監督:衣笠貞之助
サーカス小屋に団員と警官が集まって事情聴取が行われていた。空中ブランコで男が落ちた事件で、それが故意か事故かを確認するためにブランコに乗って調べようというのだ。容疑者の男(河野秋武)は気を使うよい人で、団員も彼が故意におとすなど考えられないといった。ブランコが始まり、相手の浜田はうかない顔で臨む。ブランコがすむと包丁が彼女にとぶ。出刃投げの女(田中筆子)がとばしたのだった。彼女は浜田に男をとられたという。その男が浜田とできたのを、浜田に恋していた河野に告げ口した。それが事件の原因だというのだ。河野は浜田に「頑張って」と声をかけ、去る。残された浜田は河野の名を呼び泣くのだった。
ブランコ映画は、昨日まで見てきたように落ちる事故を扱ったものがほとんどだ。いつもそんな事があるわけがないから事件になるのだ。ここでは、そこに恋がからんでいる。ただ、みんなから愛され事件の原因になる浜田がブランコをやるには少しふくよか過ぎ、ずーっと笑わないので可愛げがない。そういう意味でこの女をめぐって争っていることにあまり感情移入できないのが難である。映画としてはそれなりにまとまっているが、観客がどちらの見方にもなれないのはいかがなものか?とはいえ、衣笠監督は昨日書いた「火花」もそうだが、サーカスを撮るのがなかなかうまい。そして、構図が決まってるので映画として完成してる感じはさすがである。ラスト、網にしがみついて泣く浜田を下から撮って移動していくカメラは離れてしまった恋人が過去のものになってしまったという感じなのか?なかなかいい画である。
オムニバス映画というのは、実験的な感じに撮るしかない部分もあるが、この巨匠たちの映画もそういう観点から見るとなかなかおもしろい。戦後すぐの映画だが、男と女の基本はそれほど変わらない。進歩も退化もしないのだ・・・。
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