はだしのゲン PART3 ヒロシマのたたかい
1980年 現代ぷろだくしょん
監督:山田典吾 主演:原田潤、林泰文、丘さとみ、桜木健一、風吹ジュン
今日は66年目の原爆の日である。身近に放射能が漂う中でこの日をむかえる日がこようとは思ってもみなかった。とにかく悲しい。そして、それに何の対抗もできない日本人に情けなささえ思う。そんな日の8時15分、新たな気持ちで黙とうをさせていただいた。
「はだしのゲン」実写版の最終作は、9月になって兄弟や疎開や戦争から帰ってくるところから始まり、そして原爆の日に生まれた妹が死ぬところで終わる。戦後の混乱とむなしさの空気を描こうとしたのはわかる。ただ、作られたのが1980年というところもあり、音楽がなにかテクノっぽく、冒頭ではそんな音楽でダンスを踊る主人公がでてきたりする。より、子供たちに見てもらおうという部分もあるのだろうか、何か平和ボケの感じもする。音楽担当は平尾昌晃。
9月に入り、予科練に行っていた長男(桜木)と疎開していた次男が帰って来た。長男は父たちが死んだ事で母(丘)を責める。しかし、自分がしっかりせねばと思うのだった。アメリカ人が上陸し、ゲン(原田)と隆太(林)はキンタマを撮られるのは本当かと試すが、そこでガムを貰う。それを自慢して大家の息子と喧嘩、けがをさせてしまい、家を追い出されることに。みんなで新しい家を作るのだった。そんな中、ゲンは犬を食うおかしな男(草野大吾)にあう。赤ん坊のミルクを盗もうと米軍に忍び込み、草野に再会。そこには浮浪児仲間たちがいた。ゲンと隆太も手伝い、泥棒をするが、ゲンたちに分け前はなかった。そのかわり、ゲンは重傷を負わされる。その復讐をしようと隆太は隠してあった拳銃を使い脅かそうとする。しかし、隆太はいきおいで撃ってしまうのだった。隆太は草野たちをよく思わないヤクザにかくまわれるのだった。そして学校も再開、ゲンは自分と同じハゲの少女にあう。そして彼女の姉(風吹)がパンパンをやっているのを見て、社会の矛盾を知る。そんな時、赤子が盗まれるのだった。ゲンはでてくるように寺でお経を読む。そして、盗んだ赤子が学校の仲間のところにいるのを見つける。ピカにやられた妻のために死んだ娘の替わりにしようと盗まれたのだった。ゲンは理解するが、赤子は血をはく。ピカの影響もあるし、薬を買うには百円は必要だと医者はいう。ゲンはお経を読み稼ごうとするが、無理があった。そこに、戦時中に世話になった朝鮮人の朴さん(財津一郎)が現れる。彼は闇屋で儲けていて、百円貸してくれた。しかし、帰ると赤子の命はつきていた。
戦後すぐの広島。そこは、必死に生きることがやっとのカオスな世界である。人間の本性が見え隠れする中で、ゲンが生きていくさまを描いている。人殺しをする部分なども有り、子供たちにみせるには少々ハードな部分がある。それをある意味浄化するために音楽がテクノなのかもしれない・・。
草野大吾が演じるヤクザな世界は「仁義なき戦い」の一角とみていい。そういう、殺伐な世界があって、復興がなりたったということはあるのだろう。そして、そういうさまざまなイレギュラーな事実や、理解できない矛盾が、ゲンのような子供たちを強くし、今の広島があるといっても過言ではないだろう。
しかし、このシリーズ、3作目も役者陣は総とっかえである。一作目で三國連太郎がやった役を鈴木瑞穂が演じ、回想シーンまで作っている。話の流れに問題はないが、やはり、同じ役者陣で3作作ってほしいというのが見ている方の本音である。一作目にまだ少年の顔をしていた男が、同じ年に桜木健一になって帰ってくるのはやはり違和感がある。
とはいえ、ゲンや子供たちの熱演は同じようにできているので、まあよしとはするが、しいて言えば、やはり一作目の子供たちが一番迫力があった気もする。映画とはなんとか作ればいいというものでもないのだ。
低予算映画でセットがなかなか大掛かりにつくれないのはあるが、この戦後の広島の空気感が今一つ伝わらないのはちょっとさびしい気もする。まあ、役者たちの熱演で映画のパワーは増幅はされているけれどもね・・・。風吹ジュンのパンパンや財津一郎の朝鮮人は、なかなかよかったです。
ラスト近く、ゲンがお経を売りに行くシーンで、タモリと赤塚不二夫がでてくる。赤塚先生はまだ太っていてお元気である。映画でこの二人の2ショットが何故かこの映画で見られるのだ。
ラストは原爆の日に生まれた子供が死んで終わる。ここでは栄養失調という大前提があるが、やはり放射能の影響を最初に受けるのは赤ちゃんだということも語っている。今回の原発事故で、いまだその言及が国からしっかりとなされていない。現在の政府も66年前と同じように被害者に対しなんの役にも立っていない。子供たちよ、ゲンのように強く生きろ!としかいえないのは本当に悲しいことである。
この3部作、イデオロギーが特に強い映画ではないが、子供たちと戦争について原爆について語るにはよい教材といえる。そういう意味で継承しつづけたいフィルムではある。
Twitter http://twitter.com/runupgo
- はだしのゲン PART3 ヒロシマのたたかい [DVD]/丘さとみ,風吹ジュン,財津一郎
- ¥2,940
- Amazon.co.jp