黒の報告書
1963年 大映
監督:増村保造 主演:宇津井健、叶順子、小沢栄太郎、神山繁、高松英郎
「黒シリーズ」第三弾。昨今は、検察が証拠を捏造したという話で盛り上がっているが、この話は、弁護士が事件のストーリーを書き換え、関係者をいいくるめて、事実をまげて、被告を無罪にする話である。「裁判はゲームだ。スポーツだ」とこの弁護士はいってのける。約50年前の映画である。現在の体たらくをみれば司法の何%かは、こんなデタラメの中で行われたという事もありうるということだ。裁判員裁判にしたところで、どれだけ彼らを言いくるめられるかという事であり、ゲーマーが増えただけの話ではないか?むなしさだけが残る映画だが、現代においても古さを見せないのは凄い!
宇津井は千葉の検事。ある殺人事件にからむ。壺で殴り殺され、指紋も髪の毛もあり、事件の解決は早いと見えた。そんな折、宇津井には東京に栄転の話が入りはりきる。愛人の叶から後妻(近藤美恵子)と金貸しの男(神山)が不倫をしていたと聞く。また、息子からも同じような話がわかり、近藤の男である神山が犯人に浮かび上がる。指紋も髪の毛も照合され、逮捕。しかし、彼は黙秘権を使う。そこに会社に雇われた弁護士(小沢)が現れる。ひと癖ある小沢は、会社の不正を隠すために、神山を無罪にするために雇われたのだ。あらゆる手を使い、証人になるべく人物を囲いこむ。そして、神山の自白のないままに裁判に。宇津井が取った調書とは正反対の証言が続く。調書を提出しても、結果は無罪だった。控訴しようと、当日の目撃者を見つけるが、遅かった。無罪決定で、宇津井は青森に左遷になる。その旅だちの日、小沢に騙され、金をもらえなかった叶が偽証罪で訴えてくれと訪ねてくる。いまさらと思う宇津井だった。
小沢栄太郎の卑劣な弁護士が出色である。宇津井の混乱するのに対し、最初から勝ち誇った態度がいやらしくて最高である。裁判というのも、攻撃したほうが勝ちなのだ。正直、ここにあるように、証人、全員をいいくるめるというのは難しいだろう。証拠を考えれば、鈍器に他の第三者の指紋がないのは不自然だし、こんな一方的に嘘がみやぶれない裁判はないだろう。でも、もし裁判官もぐるだとしたらとか考えると本当におそろしい。
周囲も振り回される宇津井をただ傍観してる感もある。実際、人の仕事にかまってられないという雰囲気はある。まあ、この映画を見ていると証拠捏造に走る感覚もわからんではない。検事もストレスたまるよな~。
増村映画はやはり女の描き方がなかなかである。叶は三作の中では一番いい。金に心が動くところがよくでている。そして、宇津井に「本当の事をしゃべってくれ」といわれると「結婚してくれたら話してもいいは」という。あくまでも、自己保身に走り、最後に騙されたことを知り訪ねてくる。その変化がなかなかおもしろい。増村演出あってのことだろう。あと、後妻やまちあいの女など、小沢側の芝居に乗った連中のしてやったりの顔もにくたらしくてたまらない。
そんな中で宇津井の見方は刑事の殿山泰司だけである。したたかな職人捜査が光る。こういう細かい芝居をちゃんと演じられる人である。まあ、最後に証人をみつけ、神山の犯罪だったことははっきりするのだが、事は終わっていたという話だ。時間制限内にどちらが逃げ切るかみたいな司法で良いのかという皮肉になっている。
ということで、増村の映画にしては、俳優の芝居の凄さで全編が持たされてしまっている。裁判所のシーンなども、特に凝った感じではない。それほど、映画作りにはのっていないという感じだ。テーマ性に疑問があったのかもしれない。まだ「黒の試走車」の方が生きがいい感じだ。
最後は、叶が自首することで、話に救いはもたせているが、現代に置き換えて見るとぞっとする。この50年間、何度こんなねじれた裁判が行われていたのであろうか?立法、司法、行政、国の中枢をささえるすべてに大きな欠陥があったのかもしれないと思うとたまらない・・。都市伝説ならいいのだが・・・。とにかく、この映画、今、突然、テレビのゴールデンタイムで流したら反響すごいと思いますよ!
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