黒の試走車(1962) | 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために

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日本映画をひとりの男が見続けます。映画はタイムマシンです。そういう観点も含め多様な映画を解説していきます。範疇は作られた日本映画全てです。

黒の試走車

1962年 大映

監督:増村保造 主演:田宮二郎、叶順子、船越英二、高松英郎


黒のシリーズと呼ばれる一連のシリーズのきっかけになった作品だ。原作は当時のストーリーテラー梶山季之(今ではあまり読める環境にないが、彼はもっと認められて良い作家である)。高度成長で企業間の競争が激しくなり、産業スパイが当然のことのようになってきた環境を描いている。最近の企業のセキュリティとは防御することだが、この時代のスパイは攻撃あるのみである。現在、日本が劣勢にある原因はここにヒントがある。そう攻撃こそ最大の防御なのに、攻撃の手段を知らない草食系企業が多すぎるという点だ。ついでにいえば、政府の外交も同じ。手法はともかく、今の日本人には、この映画の高松英郎のような狡猾さが必要なのだ・・・。


タイガー自動車の新車、パイオニアの走行テストから始まる。テストは横転して失敗。そこにいたスパイに新聞にリークされる。スパイは誰かが問題になる。そして企画課長の高松は手を入れた仕様書を幹部に配り、探りを入れる。高松の部下の田宮は恋人(叶)を敵の部長(菅井一郎)が出入りするバーに勤めさせ探り、菅井が仕様書を見ているのをつきとめる。しかし、スパイはわからず田宮が菅井に直接図面を売りにいく。田宮は菅井に軽くあしらわれる。次に菅井の会社が新車を出すという情報が入る。デザインを盗むとそれはパイオニアとほぼ同じ。高松は今度は価格競争に持ち込む。田宮は叶を菅井に抱かせて価格を盗む。新車競争は勝ったと思いきや、発売の日にパイオニアは事故を起こす。運転していたのは軍隊で菅井の部下だった男。誰が売ったのかを探ると、そこに浮き出たのは社長の婿の船越だった。情事の写真を撮られゆすられていたのだ。船越はすべてを吐き自殺する。その情景を見た田宮は耐えきれず会社をやめるのだった。


増村監督の企業スパイの話といえば、以前に書いた「巨人と玩具」http://ameblo.jp/runupgo/entry-10515085009.html があるが、高松の役はテイストもほとんど同じである。ただ、今回は勝負に勝つ。とにかく、金をつんで、口を割らせる。まあ、いけいけどんどんの時代にはこういうことが多々あったとは思われる。そして、その裏にはこの映画にあるように、軍人あがりのセンスが多分に影響しているのだろう。ここで敵となる菅井は関東軍でならした男という設定になっている。(「不毛地帯」とおなじような背景なのだ)


結局のところ、日本の高度成長は軍人教育されたものが作ったということであり、その技術は継承できるものではなかったというのが現実なのである。この映画が作られて50年。今頃きづくという事だ。田宮がやめるというと高松が「道徳を気にしていたら、現代を生きられん、落伍するだけだ」というセリフを吐く。今の世の中のゆがみは半世紀前にもう予測できたのではないか?


この映画の主人公は完全に高松だ。田宮は恋人に振られた後、でてこないで、最後に突然、いやになったと出ていく。少し、短絡的すぎる役だ。まあ、ひとり善人をおくことで、話を中和させたという事だろう。田宮自身の芝居もあまりパッとはしていない。


そして、同様な話なのに「巨人と玩具」に対してトーンが暗い。白黒であることもあるが、何か映画に疾走感がないのだ。構図などはところどころに増村らしいセンスを見いだせるのだが(最後の浜辺の寝ながらのキスを俯瞰で撮るシーンなどステキである)カメラはあまり動かないし、役者も高松以外は凡庸なのが気になる。


まあ、恋人役が叶順子であるので、その暗さが際立つ。この人、大映の女優としては華がなく印象も薄い。顔があまり特徴的でないのもあるが、目立たないし重い。ということで、女優としては残らなかったのだろうが・・・。


高松以外の芝居では、船越が最後にすべてを吐かされ、高松に飛びかかり自殺するまでのシークエンスは鬼気せまり名演だ。(私が見た船越の演技の中ではトップクラスだ)


結局、話はおもしろいが、映画的には今ひとつはじけず、何か田宮二郎の演技と同様に消化不良なところが気になる映画ではある。しかし、今見るとこういう悪い奴らが日本を作ってきたのは理解できる。それをよしとするわけでないが、なんでも道徳的にという体質が日本を閉塞感におとしこんでいることは事実なようだ。まあ、周囲を見ても、悪い顔した人少ないんだよね・・・・。そう、現代は「黒の○○」なんて映画は撮れないのですよ・・・。


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