夏の武庫川の河原は涼を求めて若いカップルや老夫婦がそぞろ歩いていた。

武庫川の水量は豊富で青くきれいに澄んだ水が滔滔と流れていた。

夕方になると多くの水鳥が堰に集まってきて盛んに小魚を啄ばんでいた。

 

真っ赤な夕日が遠くの六甲山の彼方に沈み始めていた。

隼人は白く水しぶきの立っている堰の中から沈めておいたモンドリをそーと引き上げた。

中には十三、四センチの小魚がビッシリ、満杯に入っていた。

「わーすごい!ものすごく捕れたね」

「これだけ捕れれば今夜のおかずは充分だ。さー帰ろう」

 

隼人と省三が風呂から上がってくると父の秀男が浴衣姿でビールを片手に小魚のから揚げをつまんでた。

「これはうまい。生きた魚のから揚げは格別じゃ」

省三は父の嬉しそうな顔を見てなお一層楽しくなり隼人と笑顔を交わした。

 

台所からキュウちゃんのキャー、キャーという甲高い声が聞こえてくる。

「どうしたの。キュウちゃん」省三はキュウちゃんの近くに行って声をかけた。

「あまり近くに来ないで。生きた魚を油に入れるとピ、ピ、と跳ねて油を飛ばすのよ。キャー」

魚をフライパンに入れるたびにキュウちゃんは悲鳴を上げている。

省三は丸く反り返った小魚のから揚げをお皿に盛って父と隼人のテーブルに持って行った。

 

「お父さんこれ見て。全部ジャイアンツの選手のサインだよ」

省三は食卓のテーブルの上に数枚の色紙を並べた。

「別所も、川上も、青田のもあるよ」

「いいもの貰ったね。そこの公園で貰ったのかい」

「そう、朝五時に起きて公園に行ってもらったんだ」

「ちょうど、巨人軍が来ていてよかった。省ちゃんはよっぽど運がいいんだ」

隼人は今朝のサインをもらう時の省三の嬉しそうな顔を思い出しながら言った。

 

秀男はこの子は少し無鉄砲だがよほど運の強い星に生まれてきているかもしれないと思い始めていた。