進行中の全てのプロジェクトをいったん停止し、ブラックテレキャスターに取り組んでいます
外見はほぼ完ぺきなテレキャスターですが、当然ながら細かく見ると、改善すべき点はいろいろあります。なので本人の努力の形跡を崩すことなく、楽器としてもう少し快適にプレイできるように修正します
まず私が一番驚いたのはネックポケットの加工です
現代の楽器製作現場では、ネックポケット部分もコンピューター制御のNCルーターで自動的に仕上がってきますが、個人で木材からボディーを切り出す場合、ボディー本体を切り出す前にトリマーでネックポケット部分を切削しておく場合がほとんどだと思います。ボディーの端っこに位置するポケットを水平に彫り下げるには、トリマーが全周囲で支えられる必要があるからです。
しかし中学生は当然そんなノウハウは持っていませんし、そもそもトリマーなど使用しません。全て手作業で彫ったはずですが、ギター製作で最もデリケートな部分であるにもかかわらず、これがなかなか上手く出来ています
ただ、ネックポケットの奥から手前側に向けて傾斜がついてしまい、ジョイント部分にGIBSONのような「仕込み角」がついてしまっているので、結果ブリッジサドルを限界まで高く上げることになり、大変弾きにくい状態になっています
なのでポケット底面をやや水平に戻し、弦高を下げられるように修正します。
このように縦方向には修正を加えましたが、左右方向のブレは一切なく、驚いたことにネックのセンターずれが全く見られません
ここは大手メーカーの完成品はもとより、そこそこ弄れる人の作例であってもしばしば修正が必要になる部分です。素晴らしいですね
ただし…ストリングガイドの設置位置が2・3弦にまたがっているのはご愛敬で、これは1・2弦に修正しました。
きっと弦を張る前に目分量で打ったのでしょう
ネジ類は全体的にあり合わせの物を使ったようです。ホームセンターで売っているようなネジが使われており、種類の異なる物が混用されているので、重要部分については楽器用の物に交換しておきます。
ネックジョイント部は上の4本でしたが、下の4本に交換
ペグには4種類のネジが使われていました。これも穴を開け直して全て交換
機能上不安のある個所は正規品に交換し、ピックガード等、機能に問題の無い部分については本人が調達したネジをそのまま使用します。本人の努力の結晶を全て変える訳にはいきませんからね
それからヘッドの裏側は平面形を切り出しただけの状態なので、これは私がいつも中国製の修正でやっている、カンナ作業を加えておきます。
一応教師ですから全部やってしまうような野暮はしません
曲面カンナが必要な木工部分だけで塗装は本人にやってもらいます。
しかしまぁこの画像を見ながら想像してみてください
私は2000年代初頭に「総合的な学習」というものが導入されてから一時期、自分のクラスでは木工作業を取り入れました。和紙作りの過程で、紙をすくのに使う型枠を自分たちで作らせたのです。女子のみとはいえ、高学年でもノコギリ作業は大変難しく、鉛筆の線に沿って真っすぐに切っていくことさえ決して容易ではありません
まして極めて硬いメイプル材をS字曲線にカットするなど、経験のない者にはその方法すら想像もつかないでしょう。しかし少年の熱意は、そんなハードルをいとも簡単に乗り越え、行動に移させます。
切り口の画像から、壮絶な格闘の様子がうかがえます
折しも昨日の兵庫県のニュースは考えさせられました
「彫刻刀で5年生の児童10人がけが 神戸市立の小学校の授業 右手の親指の腱を切る大けがも」
このようなニュースが流れる度、教育現場で出来る活動はどんどん狭められてきました。
ニュースに寄せられたコメントを見ると、「こんな事をいちいちニュースで取り上げるから、危険回避も何もできない子どもが育つんだ」式のものが多いですが、そういった意見は文体からほぼ昭和の古い教育を受けた男性のものと感じられます。信じがたいことですが、現在の小学生の親は、すでに平成生まれが大半になりつつある時代に突入しました
私は2年生以上を担任する時は、必ず1学期のうちに「カッターナイフで鉛筆を削る」という活動をやらせてきましたが、そのために4月最初の保護者会で、その趣旨を説明した上で実施しました。
保護者会にいらっしゃるのは大抵母親ですが、みな快く賛同してくださって、家で親と一緒に練習する機会を持つなど、評判は大変良かったです。
テレを作った少年も、これだけ腕力を必要とする加工に取り組みながら、怪我はなかったようで何よりです
アウトプットジャック付近の加工も難しかったと思いますが、ややグラつきはあるものの、機能はちゃんと果たしています。
他には…完成したばかりなのに、多くのネジで、ネジ溝が摩耗してネジがほとんど効いていない状態だったので、一度穴埋めをしてから開け直しておきました。
おそらく、何度も何度も何度も何度も何度も…取り付けと取り外しを繰り返し、問題の解決に取り組んだ結果でしょう
私が追加で実施した修正作業は以上ですが、当ブログの読者諸兄であれば、画像を見ただけで、このテレキャスターにどれほどの情熱が注がれたか容易に理解なさることでしょう
並大抵のことではありません
当人にとっては、ハイエンドギターやヴィンテージ等より、はるかに価値のある1本になったはずです。
私はこの少年が、自分の生徒でなくて本当に良かったと安堵しています。
なぜって?
もし読者諸兄が教師で、夏休みの自由研究でこんなの提出されたらどうしますか?
学期末の通信簿で、勢い余って全教科に「良い」をつけてしまうのではないですか(笑)