音が出ないということでジャンク品として売られていたギターです。1ヶ月ほどかけて少しずつ手を入れて復活させました
私がレスポールに手を出すのは極稀です。大変なことが分かってますし、そもそもFENDERと違ってカスタムの余地がほとんどないので弄る楽しみもなく、面白くありません
ただし例外があって、ジャパビンと呼ばれる70年代末から80年代初頭のコピーを極めた時期の物は本当に良くできており、これがゴミ同然の状態で埃を被っていると「俺が救ってやらねば」と思ってしまうんです。なのでレスポールの場合はカスタムが目的ではなく、レストアが目的ということになります
今回発見した楽器はフェルナンデスFLG-70BS
手元にある1978年のカタログにドンズバ同じ物が載っています。
メイプルトップ、マホガニーバックでそのマホガニーはノンプライ、すなわち1ピースマホです。購入時パッと見、接ぎ目のようなものがあるので2ピースかと思っていましたが、カタログに「ノンプライ」とあるので改めてよく見てみたら、接ぎ目ではありませんでした
ネックはヒール部分こそ接いでありますが、スカーフジョイントではなく、ヘッドの耳接ぎもあります。
【モロ LES PAULなんて今はNGですよ】
【ペグは古いタイプのGOTOH シリアルは一部判読不能】
現在このような贅沢な木取りで作られたレスポールは、当然ながらハイエンドの機種だけでしょう
前オーナーは、音が出なくなったということで自分で修理を試みたのでしょう。ジャック周りは丸ごと脱落し、コントロール部分のパネルもなく、なぜかロッドカバーやトグルスイッチのプレートも欠品していました。配線もスイッチ周りが全て一度切断され、めちゃくちゃに繋がれていました。結局問題は解決に至らず、相当な年月放置されてしまったようです
持ち帰って調べたところ、問題はすぐに判明しました。ジャックを取り付けてアンプにつなぎましたが、どこの部分でドライバーをHOTに当ててもウンともスンとも言いません。どこかで信号がショートしているはずです。テスターで調べていくと、スイッチからアウトプットに向かうシールド線がショートしていました。そこで信号がアースに流れてしまい、ダンマリになっていたのです
このモデルは全ての配線にシールド線を使っていて無駄が多すぎます。おまけにムダに遠回りしている線も散見されます。劣化したシールド線は廃棄し、思い切ってシンプルな配線に作り直すことにしました。
今回は改造も塗装もないので、徹底的にクリーニングに時間をかけました。ネジ1本にいたるまで外して埃にまみれていたピックアップも分解し、サビを落とし、綿棒やブラシの入らないところはコンプレッサーの圧縮空気で埃を吹き飛ばしました
フィンガーボードも手垢などは全てクリーニングし、脱脂した上でレモンオイルで保湿しました。当然フレットもピカピカに磨いてあります
おっとそれから、部品は交換していませんが、ナットの溝を切り直しています。最初ナットの溝が高すぎてアールもほとんどついておらず、特にローポジションは弦高が高いためにアコギより弾きにくかったです。私が子どもの頃、もしこれが最初のギターだったら挫折していたかもしれません。そういう意味では最初のギターってやっぱり大事ですね初心者は下手クソなのは自分のせいとしか思いませんから…
自分でも弾く町の楽器屋のオヤジは、入荷したギターそのままではなく、自分で再調整の上店頭に出していたとも聞きますし、量販店やまして通販で買うなんて、自分で弄れる人間でないと怖いですね
欠品していたロッドカバーとジャックプレート、トグルスイッチプレートを補充。コントール部の菱形のパネルはジャストフィットするように自作してあります。
【目立ちませんがカッタウェイ内側に若干バインディングの浮きがあります。年式からいって仕方ないところか…】
ピックアップはフェルナンデスオリジナルで、直流抵抗値はどちらも8.4kΩほど。当然アルニコマグネットです。ヴィンテージタイプですが音量が大きく、もっとパワーがあるように感じます。
私自身はゼブラはアジャスタブルPP側が黒い方が好きですが、これはカタログと同じでホワイト側がアジャスタブルPPになっています。松本とスラッシュ、内外の人気ギタリストが揃ってホワイト側アジャスタブルPPのバーストを愛用したことからこちらが人気になりました。
ブラウンサンバーストもどうでしょう 私はチェリーの方が綺麗で好きですが…
ちなみにバースト本の多くは、このブラウンサンバーストに見える個体は最初からこの色だったわけではなく、チェリーが経年変化したものという説明をしています。私は昔から不思議に思っていました。色が飛ぶことはあっても、濃くなることなどあるのか?
ある時謎が判明しました。1950年から1966年までGIBSON社長として在籍したテッド・マッカーティー。何の本だったか忘れましたが彼がインタビューで語っていたのは、あのブラウンサンバーストは塗装担当の職人の反乱だったと…
それまで箱物をメインに塗ってきた塗装担当者の一部はチェリーサンバーストが気に入らず、ギブソンの楽器は伝統的な色で塗るべきだと主張し、隠れては時折ブラウンで塗っていたというのです。この記事で一気に腑に落ちました。あのブラウンで塗られたバーストは、まだロックのない時代に会社に反抗した職人の反骨精神の賜物だったのです
これを知ってからは、ブラウンサンバーストに新たな思い入れを持てるようになりました
彼らは塗装担当でしたが、伝統を尊重する会社にあって、ボディー加工担当などは、Ⅴやエクスプローラーをどういう気持ちで受け止めたのでしょうか? 想像するとおかしくなってきます売れなくて間もなく生産終了となり、ホッとしていたかもしれませんね
【PUキャビティーから分厚いメイプルTOPが確認できます】
話がそれましたが、ローズウッドからマホガニーまで良材の確保が難しくなっている現在、今後の国産には期待できないような本格的なレスポールです。生鳴りも素晴らしいです。ただし重量は4470gと、近年の軽いギターに慣れた今となってはズシっときます。これぞ男のレスポール!(笑)