作業②【塗装剥がし】

私は自分でやるカスタム品のほぼ80%をリフィニッシュしてしまいます。高級なパーツやピックアップに載せかえるよりも、コストをかけずに効果的に鳴りを改善できるという点でお奨めです。ただし、この工程があらゆる作業の中で一番の手間と労力を要しますチュー

 

木製品は伐採され製材された時点で、すでに生命体としては命を宿しているわけではありません。しかし外気に含まれる水分を吸ったり吐いたりすることが「呼吸をしている」のだと表現されることがあります。

ところが、我々世代が一番お世話になった197080年代の国産品や、現行機種の多くは(一部の高級機種を除いて)ポリ塗装が施されています。比較的安価で仕上がりも均一のなるところが大量生産に向いているのですが、この分厚いポリ塗装というのは、いわばプラスティックコーティングをしてあるようなもので、10年以上経っても新品時の輝きを維持できる反面、木材を外界から完全に遮断し、経年変化の機会も、木材本来の鳴りをも奪う結果になっています。

 

以下の画像は、アイロン加熱によって比較的簡単に塗膜を剥がすことができた例ですが、その塗膜の厚さが一見して分かるかと思います。これを除去するというのは、いわば塗膜から木材を解放するというイメージです。

 

画像のように一行程で木地まで剥がせることは稀で、実際には34層を形成しており、最後(塗った順は最初)のシーラー層は木材に浸み込んでいるので、「剥がす」というより「削る」という作業になります。

手順としてはアイロンで過熱して塗膜を軟化させ、スクレーパーで剥がすという作業を繰り返しますが、アイロンが使えるのは平らな表裏だけで、曲面になるボディー側面はドライヤーで加熱したり、さらにややこしいカッタウェイ部分はハンダごてで加熱し、少量ずつ剥がします。

 

 

ここまでで木目が見えるので「けっこう簡単じゃん」と思うかもしれませんが・・・

実際に加熱で剥がすことができるのはトップコートとカラーコートまでで、その下には先に記したように、材に直接吹かれたシーラー層(ほとんどが透明)があります。

 

オークションに出品されているレリック物の画像をよく観察すると、多くの場合シーラー層が残っているのが分かります。これも剥がして木地まで戻すというのはとても大変な作業になります。シーラーは、木材に一部浸透する形で定着しているので、同じように無理に加熱で剥がそうとすると、木ごと剥がれる箇所が出てきます。そこでここからはサンドペーパーで削っていくことになりますが、オービタルサンダーのような電動工具が使えるのはやはり平らな表裏だけで、あとは汗をかきかき手作業になります。手早く仕上げようと60番や80番のような粗目のペーパーを使うと、木材まで一緒に削ってボディーシェイプを損なうことになります。事実、プロショップの仕事でも、リフィニッシュされたストラトの角(つの)が丸くなってしまっているものを見ることがあります。

私は最低でも180番を使い、削った粉の色や臭いに注意して、木材を削ってしまうことがないよう慎重に作業をしています。プラスチックと木では、削った時の手の感触と臭いがまるで違うので、初めてでも簡単に区別できると思います。

FENDER本社の最終仕上げは320番だそうですが、私は場合によっては400番まで下げることもあります。

 

塗装の状態は、実はメーカーよって様々です。塗料のメーカーや作業工程の違い、年代によってもそれぞれ違いがあるので、中には加熱作業だけで木地に戻すことが可能な楽チンメーカーもあります。逆にシーラー塗料の分子構造が小さく、木材に浸透する割合が高くて死ぬほど苦労するメーカーもあります。極めつけはシースルーカラーの場合、カラー層に染料系の塗料が使われていて、木地に戻すことが不可能な場合もあります。その場合ナチュラル仕上げは断念することになります。

 

それから、素材がアルダーかアッシュかマホガニーかでも剥がし易さに違いがあります。それらの組み合わせによって、効率的なやり方も変わってくるのですが、それは皆様が経験を積むことで独自のノウハウを蓄積していってください。

 

「エレキギター リフィニッシュ」で検索すると、たくさんのギター工房の料金表を参照することができます。平均的な相場は、ネックが20000円前後、ボディーは50000円前後といった感じ。「お、ここは安いかな」と思っても、よく見ると部品脱着・塗装剥離・下地処理・組み込み作業というように、工程ごとに別料金だったりします。

高い工房さんですと全て込みで軽く100000円を越える金額が提示されているところも多く、例えば、あるギターリペア工房さんのサイトでは、ネックとボディーそれぞれについて、塗装剥がし・下地処理・塗装の工程が全部別料金となっていて、ボディーだけやってもらっても145000円、ネックを含めると計265000円となっています。きっと既製品のような美しい仕上がりになるのでしょうが、私ならもう1本別のギターを買います()

 

40万円とか50万円で買ったギターならいざしらず、45万円で落札した中古品となると、リフィニッシュにそれ以上の金額を払うというのは少し考え込んでしまう事態ではないでしょうか。自分でやれば電気代とサンドペーパー代、塗料の料金だけですみます。

 

それだけリフィニッシュという作業が手間と労力を要する作業だということですが、まずはどれだけ大変か、自分でやってみることをお奨めします。私自身もそうですが、やってみた結果、「そりゃ~そのくらい取りたいわ!」となるかもしれません()