タバコが蔓延するのは、一つには、ニコチンのように依存性のある物を、お金儲けに利用する人々がいて、いろいろな販売促進活動を行っているからです。世の中は良い人ばかりではありません。私たちを依存症にさせて、お金を儲ける人々がいるのです。
「タバコはなぜやめられないか」(宮里、岩波新書、1993年)という本があります。この本には、タバコでお金を儲けている人々の考えに沿った主張が多く書かれています。
この本には「肺がん」という言葉は出てきません。著者は、毎年日本で10万人くらいの人がタバコによるがんで死んでいる事実をあまり気にしていないようです。
この本には「嗜好品」という言葉が何回か出てきます。もしタバコが有害でもなく、依存性も無いのであれば、そのような表現でも良いかもしれません。しかし、現実には大きな害があり依存性があります。
むしろタバコを称賛するような言葉が出てきます。この本には次のような文が出てきます。
「ニコチンの精神面への急性効果は、むしろ社会生活上のよりよい適応や能率の向上をもたらしている」
タバコを吸うとイライラが消えます。タバコを吸うと、吸わないでいたフラストレーションは、しばらくの間は消えます。退薬症状(禁断症状)の苦痛は、その依存薬物を摂取すると急速に消えます。これは、簡単にやめられない理由の一つです。駆け出しのフロイトは、友人をコカイン中毒にしました。
この本の冒頭には次の文があります。
「ひと仕事終えて、くつろうだ雰囲気でタバコを一服している姿が目に留まることがある。その光景は美しくみえる。やるべきことを成し終えた満足感が漂う」
先に申し上げましたように、タバコを吸う人が、何時間か吸わないでいるとタバコを吸いたくてたまらなくなります。そのような状態の人がタバコを吸うと、イライラや苦痛が一挙に解消します。外から見ると満足しているように見えます。それだけのことです。
著者は「薬そのものは中立であり、薬に罪は無い。要は、われわれがそれをどう使うかにかかっている」と述べています。著者は、『タバコを作っている会社に罪は無く、やめられない人の意思の薄弱さや性格の弱さが原因だ』と言いたいのでしょう。
この本は、「ニコチンはアルツハイマー病に効果的だ」と言っています。世界保健機構WHOは、次のように述べています。「アルツハイマー病の14%は、喫煙が原因で引き起こされた」。喫煙は、アルツハイマー病を治すのではなく作るのです。
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=11&ved=2ahUKEwiMhfPnpMTpAhWId94KHd9ECm4QFjAKegQIARAB&url=https%3A%2F%2Fapps.who.int%2Firis%2Fbitstream%2F10665%2F128041%2F1%2FWHO_NMH_PND_CIC_TKS_14.1_eng.pdf&usg=AOvVaw3PyOrPyH_kAv4i550I_NTk
著者は、「喫煙科学研究財団からの助成により研究を続けることができた」と述べています。喫煙科学研究財団は、タバコ会社の主張を支持するような研究に資金援助する財団です。著者は、たばこ産業がお金を出している団体から研究費を受け取っていたということです。
日本禁煙学会の中にある文書は、次のように述べています。
「設⽴時の出捐企業⼀覧において明らかにさ れているように、同財団(喫煙科学研究財団)に対するJTの寄付⾦は、寄付⾦総額11億3,000万円のうち9割 近く(9億9,100万円)を占めていた」
「たばこ業界は陰に隠れて」 (副題)「⽇本たばこによる喫煙科学研究財団を介したたばこ政策と科学への⼲渉」
http://www.jstc.or.jp/uploads/uploads/files/tobaccocontrol-2017-053971-inline-supplementary-material-1%281%29.pdf
また、日本禁煙学会は次のように述べています。
「喫煙科学研究財団は JT と表裏一体」
「喫煙科学研究財団の解散を勧告します」
http://www.nosmoke55.jp/action/0808kituenkagakuzaidan.pdf
(一つ前の文章によれば、米国においても類似の団体があったが包括合意の際に解散させられた、とのことです)
また、日本公衆衛生学会の投稿規定13は、次のように述べています。
「前項の経済的支援につき,国内外のたばこ製造に係る事業者またはその関連団体(喫煙科学研究財団など)から受けているときは,査読の対象とせず,返却する」
https://www.jsph.jp/files/docments/kitei20200309.pdf
(このように、喫煙科学研究財団がわざわざ名指しされています。この本の著者が、この学会に論文を送っても、読まずに返却されることでしょう)
日本癌学会は、禁煙宣言において会員へつぎのように呼びかけでいます。
「会員は喫煙関連産業または喫煙関連産業からの出資金で運営される団体等からの研究助成を受けない。また、これらの資金提供を受けた研究については、日本癌学会の学術集会での発表および学会誌への投稿を認めない」
https://www.jca.gr.jp/researcher/smoking/declaration.html
(この本の著者は、たばこ会社からの出資金で運営される団体から資金援助を受けています。この本の著者は、この学会で発表をすることはできないでしょうし、論文を投稿しても拒絶されるでしょう)
この本には、「世界保健機構WHO」という言葉はでてきません。WHOが提唱している実効性の高い対策も紹介されていません。WHOは主に「環境対策」を提唱していますが、この本にはそうした環境対策は紹介されていません。
タバコ会社は、青少年や女性をターゲットにした販売促進活動を行っています。この本はそうした事実を説明していません。
しかし、タバコ病裁判では、日本ではすべての原告が敗訴しています。裁判では、この本のような主張が採用されています。健康を重視する人々は、現状は負け犬の遠吠えのような状態にあります。
こうした話は、タバコに限りません。お酒でも事情は同じです。また砂糖や悪い油についても同様です。食品を加工するときには、たいてい砂糖や食塩や化学調味料が混入されますが、加工食品も同じです。「フードトラップ」という本は、食品企業が何を考えて行動しているかを明らかにしています。
このように、この世は恐ろしい人々で満ちています。他人の健康よりも自分のお金の方がはるかに重要なのです。そうした人は、まれにいるのではなく、どの人もある程度はそうなのかもしれません。未開の地に売店ができてお金が導入されると、未開の人は、仲間より自分の利益を優先させるようになります。この世で生きてゆくには、それなりの防御が必要です。自分の健康を自分で守る必要があります。
相手は、大企業や産業団体の連合です。最先端の心理学を装備しています。お金と権力を持っています。これに対してタバコを吸う人は、一人の生身の人間です。太刀打ちできるわけもありません。巧妙に依存症に引きずり込まれ、お金を取られ、意志薄弱のレッテルを貼られます。
しかし、健康を重視する人々には、科学の真実性があります。また、他の人に対する思いやりがあります。それはコピーすることができます。お金のために他人の健康を犠牲にしなくてもよくなる日はいずれ来るでしょう。また全ての人の依存症が克服される日は、いずれ来るでしょう。