ビタミンDについて(まとめ)                    

「施設に入所するお年寄りの方には、ビタミンD欠乏症の人が多くおられます」


           25(OH)ビタミンD血中濃度

私が勤務する施設で、新入所の人を中心に20名に対して血液検査を行ったところ、ビタミンD欠乏症の人が65%、不足症の人が20%、正常の人は15%いました(上の図)。日本の基準では、25(OH)ビタミンDの血中濃度が、20ng/ml未満がビタミンD欠乏症で、20~30ng/mlが不足症であり、30ng/ml以上が正常です。

毎年100人中10人~12人くらいの骨折があります。大腿骨頸部骨折や椎骨の圧迫骨折などです。骨粗鬆症に関連する骨折が多くあります。未開の地にはそうした骨折はありません。ビタミンD欠乏症が蔓延しています。なお骨粗鬆症ではカルシウムと蛋白質の両方が不足しますが、骨軟化症ではカルシウムだけが不足します。骨粗鬆症では多くの場合、骨軟化症の問題も多かれ少なかれ関係しています。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020」は、次のように述べています。
「長野県におけるコホート研究において、1,470人の閉経後女性(63.7±10.7 歳)を平均7.2年間追跡した結果、血清25─ヒドロキシビタミンD濃度が20 ng/mL未満の例は 49.6%に見られ(た)」
「50歳以上の女性1,211人を15年間追跡した、我が国におけるコホート研究の結果が発表され ている。血中25─ヒドロキシビタミンD濃度20 ng/mL未満者は52%に見られ(た)」

ビタミンD欠乏症の人が、半数もいるということです。ただし、これは季節により異なります。ビタミンD欠乏症の人は、冬は日光に当たる時間が少ないので春には増え、夏は日光に多く当たるので秋には減ります。

お年寄りの方は、若い人に比べて、ビタミンD欠乏症になりやすい傾向があります。お年寄りの方は、皮膚でビタミンDを合成する機能が低下しています。また、活動性が低下して毎日十分な日光に当たることが少なくなります。寒さに弱くなり服を多く着ます。米国の食事基準では、ビタミンDの推奨量は、70歳未満では15μg/日、70歳以上では20μg/日になっています。

ビタミンDは、食物にも含まれていますが、必要量を食物だけに頼るのは困難です。ビタミンDを多く含むのは魚とキクラゲくらいです。もし毎日30μgのビタミンDを摂取しようと思うのであれば、1日3回魚を食べる必要があります。実際、私は紫外線予防のために遮光していたとき、魚を1日3回食べていました。また毎日キクラゲを食べていました。

施設のお年寄りの方の場合は、日光浴を行うこともなかなか困難です。紫外線Bは、ガラスやプラスチックを通過しないので、実際に屋外に出る必要がありますが、そのような機会は多くありません。1日に必要なビタミンDを作るには、夏の昼では5分、冬の昼では1時間半ほど屋外に出る必要がありますが、老人施設ではなかなか困難です。

日光にあまり当たらないのであれば、ビタミンDの薬やサプリメントを飲む必要があります。ビタミンDの薬には天然型と活性型の2種類があります。欧米では天然型が飲まれており、日本では主に活性型が飲まれています。私はお年寄りの方に天然型のビタミンD(市販薬)をお勧めして飲んで頂いています。1錠25μgの天然型ビタミンDを飲んで頂くと血中25(OH)ビタミンDの濃度は30ng/mlくらいの良い値になります。ただし腎機能の低下している方には活性型のビタミンD(処方箋薬)を飲んで頂いています。ある基準によればeGFR≦30ml/分の時には活性型を飲む必要があります。100人のうち、1名か2名が該当するくらいです。

英国では65歳以上の人は10μg/日のサプリメントを飲むように勧められています。また、米国ではビタミンDは牛乳に添加されています。1リットルについて10μgです。もし25μgのビタミンDを摂取したいと思うのなら、毎日2.5リットルの牛乳を飲む必要がありますが、それは無理なことです。

1錠25μgの天然型ビタミンDは、日光にあまり当たらないお年寄りの方の常用量として飲んで頂いていますが、ビタミンD欠乏症がある場合の治療としも(増やさずに)同じ量を処方しています。しかし、欠乏症がある場合にはもっと多くの量のビタミンDを服用するという考え方もあります。例えばイギリスでは、次のようになっています。かなり複雑ですが、25(OH)ビタミンDの血中濃度が、20ng/ml未満の場合でも、軽症であれば20μg~50μg/日の天然型ビタミンD服用が勧められていますが、重症の場合には、短期間(例えば1ヶ月間)だけ7000~7500μg/日の天然型ビタミンDを服用して、維持期に20μg~50μg/日の天然型ビタミンD服用が勧められています(なお1μg=40IUです。また2.5nmol/ml=1ng/mlです)。この他、毎日服用ではなく、週に1回服用するとか、月に1回服用する場合の薬用量が記載されています。
https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=11&cad=rja&uact=8&ved=2ahUKEwicg7rbzLTpAhXKwosBHXNJAjYQFjAKegQIARAB&url=https%3A%2F%2Fmm.wirral.nhs.uk%2Fdocument_uploads%2Fguidelines%2FVitamin%2520D%2520Guidelines%2520for%2520Adults%2520v2.pdf&usg=AOvVaw02CME8O8GXjunlG25C_IDl

ビタミンDには欠乏症もありますが、過剰症もあります。厚生労働省の日本人の食事摂取基準によれば、天然型ビタミンD摂取の上限量は100μg/日です。日光に当たることが少ないお年寄りの方が25μg/日の天然型ビタミンDを服用することは問題ないと考えます。日本で普通に(若い人と同じように)日光に当たっているお年寄りの方の場合は、イギリスと同じように10μg/日の天然型ビタミンDの服用をお勧めします。活性型ビタミンDを服用するのでは、血中濃度を測ることができないので、過剰なのか不足なのかが分かりにくいという欠点があります。いずれの場合も、1錠7円くらいの安価であり、30日飲んでも210円くらいです。