次のような文書を書きました。
第12章 加齢
加齢についての学説は、大きく分けると消耗説とプログラム説の2つに分けることができます。消耗説は、新しいものが時間の経過とともに古くなるという自然な説です。DNAへの損傷は、年を取るにつれて積み重なって行きます。また細胞は、分裂を繰り返すことによりコピーミスが積み重なって行きます。これに対して、プログラム説では、老化現象はプログラムされていると主張しています。プログラム説を支持する証拠はいくつかあります。
(1)体をよく動かし頭をよく使う人は、消耗説によれば早く老けるはずですが、実際には逆であるように見えます。(2)単細胞生物では、細胞は老化せずに、無限に分裂します。人間でもがん細胞は老化することなく無限に増殖します。1951年に採取されたヒーラ細胞は、現在でも活発に増殖しています。消耗説に従えばあり得ないことです。なお、ヒトの普通の細胞では、細胞分裂可能な回数が決まっています。染色体の端にテロメアがあり、細胞分裂を繰り返すたびに短くなっていきます。しかしがん細胞では、分裂の後にテロメレースの作用によりテロメアの長さは元へ戻ります。(3)がん細胞は、しばしば幼弱化を起こします。一旦分化して老化したはずの細胞が、がん化により幼若な形態に戻って分裂を繰り返します。肺がんの細胞は、時にホルモンを分泌することがあります。これは肺がんの細胞が一旦幼若化して、さらにホルモンを分泌する細胞に分化して起こります。(4)京都大学の山中教授が作成されたiPS細胞は、いくつかの遺伝子を注入することにより、一旦分化して老化した細胞が、初期化されて幼弱な細胞に変わります。(5)我々の生殖の元になる細胞自身も、作成されてから20年くらいが経過しており、分化して老化した細胞です。しかし、受精により幼若な受精卵になります。
我々の体に大きなダメージを与えるのは、糖と酸素です。
糖は蛋白質のアミノ酸と反応して、蛋白質の糖化を引き起こします。コラーゲンやエラスティンの糖化は、繊維間の架橋結合を作り出し、年長者の皮膚は弾力を失います(Perlman)。糖尿病を治療しないと、高い血糖値が糖化反応を進めて老化が促進されたのと同じ状況になり、老化に伴って増加する病気にかかりやすくなります(オースタッド)。
正常の代謝の副産物である酸化物質は、DNAや蛋白質や脂肪に広範な障害を引き起こします。この障害は、加齢やそれによる退行病変であるがんや心臓病や免疫低下の主な原因になります。この障害から身を守る抗酸化物質には、アスコルべート、トコフェロール、カロテノイドがあります。食事の野菜や果物は、アスコルべートとカロテノイドの主要な摂取源であり、トコフェロールの一つの摂取源です(Ames)。
例えば、自動車を設計する場合の考え方の一つとして、なるべく屈強な部品を使うことが考えられます。しかし別の考え方として、耐用年数を20年くらいに設定して、20年しかもたない部品をそろえることが考えられます。不必要な頑丈さは無駄です。「老化とは、生殖の効率を良くするために、年をとってからの生存を犠牲にすることである」と主張する説があります。生物は、生存率にわずかな差があれば、置き換わることができます。
例えば、自動車を設計する場合の考え方の一つとして、なるべく屈強な部品を使うことが考えられます。しかし別の考え方として、耐用年数を20年くらいに設定して、20年しかもたない部品をそろえることが考えられます。不必要な頑丈さは無駄です。「老化とは、生殖の効率を良くするために、年をとってからの生存を犠牲にすることである」と主張する説があります。生物は、生存率にわずかな差があれば、置き換わることができます。
しかし、未開の地で、生殖年齢を過ぎても急に死亡率が高まることはないようです。未開の地では認知症は無いので、年を取るにつれて知識や経験が蓄積されます。そして、長老としての働きが可能になります。おばあさん仮説においても、老人が生きながらえた方が、若い人の生存率が良くなります。故日野原先生は、100歳を超えても知的活動を続け、若い人の役に立っておられました。そもそも、人間の寿命は、(60年くらいではなく)
125年くらいであると考えられています。
未開の地では、老齢になっても身体的な活動量は落ちません。若い人と同じような活動を維持します。イモ、野菜、果物、肉などの自然食品を食べています。メタボ系の病気にはなりません。これに対し現代人には、多すぎる砂糖、食塩、悪い油、化学調味料(グルタミン酸)など、食事の問題が多くあり、また生活不活発病が蔓延しています。それでメタボ系の病気が多発しています。未開の人々は、高齢になっても、メタボ系の病気を多く抱える事はありません。未開の人々には、そのような形の老化はありません。
老人施設では、がん検診は通常行われません。がん検診の対象者は、ある年齢で終わりになります。理由の1つとして、がんの発育が高齢になるほどゆっくりになることが挙げられます。高齢者では、代謝の速度が低下します。がんは老人に多い病気ですが、体の代謝を遅くすることで(つまり老化することで)、がんの発育を遅くしていると考えられます(近藤)。