次のような文章を書きました。

第6章 肥満

未開の人々や野生動物は肥満していません。ネット上に未開の人々の写真が多くありますが、肥満してる人は見当たりません。生物は、満腹すれば食べるの止めます。そのような仕組みが備わっています。肥満している人々は、そのような仕組みが壊れています。現代人は肥満しますが、イヌやネコなどのペットも肥満します。

肥満の仕組みとして、出るカロリーより入るカロリーの方が多いというのは砂糖産業の説明です。体重が増えて肥満になるというような説明と大して変わりません。カロリーの不均衡が起きる原因を何も述べていません。「砂糖を多く摂っても、出るカロリーより入るカロリーが小さければ良い」と言っています。

十分に食べると脂肪組織からレプチンというホルモンが出て、脳に満腹であることを伝えます。肥満している人では、この仕組みが働いていません。

進化生物学では、倹約遺伝子仮説があります。生物は食料不足をしばしば経験し、エネルギーを節約するようになったという仮説です。

井村裕夫先生は「進化医学」の中で、摂食のコントロールに関して、正の誘因仮設を説明しておられます。それは、(生物は)「食事の快楽を予想することによって摂食する」という仮説です。また、井村先生は「ラットに味付けをしたカフェテリア食を与えると多く食べる」と述べておられます。カフェテリア食では、本来ラットは必要なものを必要なだけ食べますが、美味しい味付けをしてあると、食べる量が増加するのです。高脂肪や高ショ糖が、美味しいという快楽をもたらします。

「別腹(べつばら)」という現象があります。食事をしていったん満腹になっても、甘い物が出されればさらに食べることができるという現象です。摂取カロリーが増えます。

イモ(ポテト)を食べることには何の問題もありません。しかしポテトチップでは、食塩、悪い油、化学調味料、砂糖がかけてあります。そうしたものがあると、我々は美味しいと感じるようにできています。旧石器時代には、そのような感じ方でうまくいっていましたが、しかし現在ではうまくいきません。

牛丼を毎日食べると肥満することがあります。ウシは本来は草食動物で、草を食べています。しかし肉牛は、トウモロコシなどの穀物を食べており、運動不足です。また動物性脂肪を与えられている場合があります。またホルモン薬が使われている場合があります。また肉に食塩が注射されてる場合があります。野生の動物の肉に比較すれば、牛の肉は悪い油を多く含んでいます。言わば生活習慣病のウシです。さらに、牛丼を作る際に、砂糖と醤油で甘辛く味をつけます。つまり、牛丼は、砂糖、食塩、悪い油、調味料(大豆の味)を含んでおり、特別に美味しく感じます。過剰に摂取します。

肥満対策として、食事療法が重要です。私が勤務する老人施設にも肥満した方が入所されることもあります。運動量の少ない男性では、糖尿病が無ければ1日に1,800kcalの食事が提供されます。それで、毎月平均して約1kg減っていきます。特にリバウンドも起こりません。ある研究者によれば、厳格な菜食主義者では、月に約2kgのペースで体重が減るとのことです。

白米を地面に蒔いても芽は出ませんが、玄米を蒔くと芽が出ます。白米には炭水化物を代謝するために必要な蛋白質やビタミンが含まれていません。米ぬかとして捨てた分が結局必要であり、外から補わなければなりません。牛丼には、過剰がありますが、不足もあります。野菜、果物、牛乳(豆乳)の成分が不足しています。

肥満には、不足と過剰が同時に存在します。肥満をたとえて言うなら、ハンドルやタイヤのない車が自動車会社の駐車場に溢れかえっているような状態です。栄養は、トータルのカロリーだけではありません。すべての栄養素が必要です。厚生労働省の栄養摂取基準が参考になります。アメリカ政府のチラシを見ると、平均的なアメリカ人では、ω3やビタミンDなどの栄養素は不足しており、必要量の半分程度しか摂取されていません。しかし悪い油や食塩や総カロリー数は必要量の2倍ほど摂取されています。この状態で全体を減らすと、過剰な栄養素を減らす分には問題ありませんが、不足している栄養素がさらに減ってしまうことになります。この状態で全体を減らすことはできません。

自分の味覚をごまかさずに、味付けをせずに、素材の本来の味を楽しむという正直な方策がお勧めです。ただそれだけの問題です。

私は高校の時の体重から30㎏体重が増加しましたが、ある時15㎏減らし、また後日さらに15㎏減らしました。

NHKの計るだけダイエットは、体重の評価を毎日客観的に行おうとするものです。

最近ハーバード大では、低脂肪ダイエットと低糖質ダイエットを比較しました。結果は、どちらも大差ありませんでした。むしろ、加工食品を減らすとか、野菜を多くとるとか、悪い油を減らすといった両者で共通して行った部分が大きな効果を持っていました。

肥満とは、要するに食べ物を摂り過ぎているということです。何かを減らさなければなりませんが、減らす候補としては、炭水化物か悪い油かのいずれかが適当です。いずれも熱エネルギーになる部分です。体の構成要素ではありません。炭水化物を減らすのは半分までで、減らす油は、トランス脂肪と飽和脂肪だけにするのが、お勧めです。

(9)「メタボリック症候群:現代世界への不適応 Metabolic syndrome: maladaptation to a modern world」J R Soc Med. 2004 Nov; 97(11): 511-520.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1079643/
「BMIが25であれば、22以下の場合に比較して、2型糖尿病になるリスクは5倍に増加する。BMIが30であれば、リスクは28倍に増加する」

(13)「進化の理論と摂食の心理学Evolutionary Theory and the Psychology of Eating」(A.W. Logue、1998)
http://faculty.baruch.cuny.edu/naturalscience/biology/darwin/faculty/loguea.html
「ヒトにおいて繰り返し証明されているのは、栄養不足の水準が深刻になればなるほど、食物に対するセルフ・コントロールが困難になることである」







第6.5章 糖尿病

糖尿病とは何か

糖尿病では血糖値(血液中のブドウ糖の値)が高くなります。そして尿の中にブドウ糖が出てきます。糖尿病ではインシュリンの働きが低下しています。インスリンは、ブドウ糖を細胞の外から細胞の中へ入れる働きがあります。このインスリンの働きが低下するので、細胞の外は高血糖になりますが、細胞の中は低血糖になります。筋肉細胞の中にもブドウ糖が減少するので、力が出にくくなります。糖尿病には、1型と2型があります。1型ではインシュリンの絶対量が低下します。膵臓がウィルスによって破壊されたり、アルコール性膵炎で膵臓がダメージを受けたような場合に1型糖尿病になります。これに対して2型糖尿病ではインスリンの効き目が低下します。膵臓はインスリンの分泌量を増やしますが、追いつかなくなると、糖尿病を発症してきます。

1型糖尿病は未開の地にもあります。未開の地の近くにある病院で急死した狩猟採集生活者50人を解剖した報告が行われたことがありましたが、そのうちの1人は糖尿病性昏睡による死亡でした。2型糖尿病は、未開の地には稀です。米国インディアンのピマ族では、伝統的な生活から現代的な生活に移行すると糖尿病の人が激増しました。狩猟採集生活者には稀ですが、農業が始まるに従って2型糖尿病の人が現れるようになり、最近の50年間に世界中で急増しています。日本でも増加傾向にあります。

高血糖の状態では糖化反応が起こり、糖がタンパク質と結合し、動脈硬化性を引き起こします。ブドウ糖はエネルギー通貨ですが、血糖値をなるべく上げないように、インスリンでコントロールされています。血糖値の測定に加えて、HbA1cを測定することもあります。HbA1cは過去1、2ヶ月の血糖値が反映されます。このHbA1cは、ヘモグロビンの糖化産物の1つです。これは可逆性の反応です。

糖尿病には合併症があります。合併症とは、糖尿病から次の病気になることです。血糖値が正常値より高めであると、少しずつ糖化反応が進み、臓器障害が進行します。糖尿病の患者さんには、コントロールの良い人と悪い人がいます。糖尿病に罹患すると、寿命は平均して約10年短縮します。

インスリン抵抗性(インスリンがきかなくなること)の原因は、運動の不足と中性脂肪の上昇です。中性脂肪の上昇をもたらすのは、カロリー過多、砂糖、アルコール、悪い脂肪です。

インスリン抵抗性の度合いは、組織により差があります。筋肉組織はブドウ糖を消費する重要な組織ですが、運動すればインスリン抵抗性に良い影響与えることができます。

私が経験した症例ですが、高齢の認知症の男性、かなり小柄でほぼ寝たきりでしたが、9カ月間にわたって砂糖飲料を1日3回飲んだことがありました。200ミリリットルの砂糖水にビタミンを加えたような飲料でした。9ヶ月後には、肝機能障害が起こり、200mg/dlを超える高血糖が起きました。砂糖飲料を中止したところ、約1ヵ月で肝機能障害は改善し、3.5ヶ月で血糖値は正常値に戻りました。砂糖の濃度を10%とすると、20g× 3回で1日60gの砂糖が入ります。その他にも料理に味付けとして1日9gの砂糖が入り、週3回砂糖菓子を食べ、週3回砂糖入りのコーヒーを飲みました。ダッシュダイエットが勧める1日15gの砂糖摂取を超えています。またWHOが勧めする1日25gの砂糖摂取を超えています。また日本人の平均摂取である1日44gも超えています。

砂糖はブドウ糖と果糖に分かれます。ブドウ糖は全身で代謝されますが、果糖は肝臓だけで代謝されて中性脂肪になります。糖尿病患者さんは、甘いものが好きであることが多いと私は感じています。ブドウ糖は、インスリンでコントロールされていますが、果糖にはそのような仕組みはありません。糖尿病の治療にとって重要なのは、ブドウ糖の値(血糖値)だけではなく、果糖、中性脂肪、運動量、インスリン抵抗性の強さも重要です。

ある研究者によれば、糖尿病の90%は、生活習慣の改善で治ります。渡辺昌先生は、国立栄養研究所の理事長をしておられましたが、「糖尿病は薬なしで治る」という本を書いておられます。しかし最近の本によれば、1日1回甘いものを食べて、糖尿病の薬を飲んでおられるようです。

糖尿病の治療として、低糖質食が勧められることがあります。厳格な低糖質食では、穀物、牛乳(乳糖を含む)、果物を摂ることができません。しかし、低糖質食はWHO、米国の政府機関、日本の厚生労働省は勧めていません。糖質を厳格に減らすと、必然的に高脂肪食や高蛋白質食となりますが、高脂肪食や高蛋白質食は有害です。ジョスリンは、「糖質は糖尿病を作らない。疑うものは日本を見よ」と述べました。昭和30年頃、日本人は炭水化物をかなり多く摂取していましたが、糖尿病の患者数は欧米よりかなり少なめでした。

私が勤務する施設でも、糖尿病の食事療法が行われています。お菓子など体に悪いものを食べないのがお勧めです。それで糖尿病のコントロールはかなり改善します。しかし運動不足の患者さんでは、血糖値は多少とも高めとなり、臓器障害はゆっくり進行します。

低血糖もそれなりに危険であるので、低血糖を起こさないことも重要です。作用の強い経口血糖降下剤を使用するときには、HbA1cの値を、やや高めに維持します。

糖尿病への対策としては、オーソドックスな食事療法がお勧めです。総カロリー制限、飽和脂肪制限、砂糖制限などを行い、野菜、果物、穀物、蛋白質、脂肪等を適切な分量だけ摂取するのがお勧めです。加工食品を減らして自然食品を増やし、なるべく植物中心の食事がお勧めです。

(1)砂糖税についての英国政府文書(2016年8月18日)
https://www.gov.uk/government/news/soft-drinks-industry-levy-12-things-you-should-know
・英国では2018年の4月からソフトドリンクへの課税がスタートする
・加えられた砂糖の濃度が5%、8%を超える場合には、そのソフトドリンクを出荷する業者に課税する

(2)「なぜ砂糖には依存性があるのかWhy is sugar so addictive?」(英国BBC放送、2013.3.22)
http://www.bbc.co.uk/science/0/21835302
「砂糖は気分を高揚させる。なぜなら、砂糖は体に作用して快感ホルモンのセロトニンを血液中に放出させるからである。砂糖を摂れば簡単に気分を高揚させることができるので、お祝いの時や安楽や精神的報酬が欲しい時に、砂糖を摂取するのである」

(4)「加工食品ドキュメンタリーProcessed Food Documentary」
https://www.youtube.com/watch?v=guxledYcXcE&t=132s
砂糖消費のうち、お菓子によるものは、わずかに6分の1ほどであり、砂糖消費の2分の1は、加工食品によるとのことです。

(6)「単糖類と蛋白質との反応:進化的な意味についてReaction of monosaccharides with proteins: possible evolutionary significance」(Science、1981年)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12192669
「糖化反応では、糖と蛋白質が非酵素的に反応して有害な物質が産生される。単糖類では、開環構造より環構造の方が糖化反応を起こしにくい。15の単糖類を調べたところ、ブドウ糖は、環構造が非常に安定であり、糖化反応を起こしにくい。それでブドウ糖は、一次的エネルギー蓄積物質として使われている」

(10)「甘いもの好きの進化 Evolution's Sweet Tooth」
http://www.nytimes.com/2012/06/06/opinion/evolutions-sweet-tooth.html
「食品産業が財を築いた理由は、我々が石器時代のままの体を維持して甘い物を求めるが、砂糖が安くて豊富にある宇宙時代に住んでいるからである」
「我々は、甘い物を求める我々の体を利用して金を稼ごうとする側ではなく、我々の側に立つ政府を必要としている」

(15)「果糖は体に悪いか Is fructose bad for you?」ハーバード大学健康ブログ
http://www.health.harvard.edu/blog/is-fructose-bad-for-you-201104262425
「ほとんど全ての細胞は、ブドウ糖を分解できる。しかし果糖を分解できるのは、肝細胞だけである。肝臓の内部で果糖に起きる変化は複雑である。果糖の最終産物の一つは中性脂肪である。尿酸とフリー・ラジカルも生成される」

(16)「心血管病を起こすメカニズムとしての栄養と炎症についての進化的な見方 An Evolutionary perspective of Nutrition and Inflammation as Mechanisms of Cardiovascular Disease」
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4677015/
「レプチンは、血液脳関門を超えて脳内に入り、体の栄養状態についての情報を脳に伝える。飢餓の際に起きる中性脂肪の血液中の高値は、レプチンの移動を止める。(中略)。脳における低血糖の危険を減らすために、進化を通じて、インスリン抵抗性が採用されたと考えられる」

「中性脂肪は、骨格筋や肝臓に軽度の炎症を引き起こす。それで(肥満や脂肪の多い食事による)中性脂肪は、骨格筋や肝臓におけるインスリン抵抗性を引き起こす」