次のような文章を書きました。

第5.5章 アレルギー

アレルギーとは何か

ウィルスや細菌が体に入ってきたときにそれを撃退するのが防衛反応ですが、アレルギーではその防衛反応が強すぎます。スギ花粉やホコリには、あまり病原性はありませんが、アレルギーでは、そのような本来は無害なものに対して激しく反応します。例えば気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、花粉症などがアレルギー疾患です。

人類が最初にアレルギー反応について調べた実験は、海のヒトデをすりつぶして消毒してイヌに注射する実験です。1回目の注射では特に何も起きませんが、しばらくして同じイヌに2回目の注射をすると、イヌは激しいアレルギー反応を起こして死んでしまいます。防衛反応が強すぎるわけです。1回目の注射によって体に入った異種蛋白に対して、体は防衛反応を強化します。2回目の注射によって体に入った同じ異種蛋白に対して、体中でいっせいに防衛反応が起きます。アナフィラキシーの状態になって、血圧が低下して死亡します。

アレルギーを起こすアレルゲンにはいろいろなものがあります。例えばスギ花粉とか特定の食物とか風邪のウィルスなどがアレルゲンになります。夜間の救急外来には、昔は喘息の人が今より多く来院されました。しかしステロイドの吸入が行われるようになって、気管支喘息はかなり軽くなっています。私にも軽い気管支喘息がありますが、気管支拡張剤の吸入で対応しています。軽いので、ステロイドの吸入薬は使わずに済んでいます。ステロイドは、副腎皮質ホルモンであり炎症反応を抑える働きがあります。

衛生仮説と旧友仮説

昔は、子どもの頃に家畜の動物がいる不潔な環境にいて、動物のいろいろな蛋白質が体に侵入してきました。それにより異種タンパクに慣れて、過度に強い反応を起こさなくなりました。しかし現在では子どもは非常に清潔な環境に育ちます。それで異種蛋白が体に入ると激しい反応起こしてしまいます。これが衛生仮説です。

もう一つ旧友仮説があります。古い友人とは寄生虫のことです。ヒトの体内の寄生虫は、宿主の防衛反応を抑えようとします。宿主の我々は防衛反応を強くして寄生虫を駆除しようとします。防衛反応を抑えようとする寄生虫の作用がどんどん強くなるのに対抗して、我々も防衛反応をどんどん強化します。そして、ある一定のところで平衡に達して安定した状態になります。しかしある時突然この古い友達はいなくなったのです。我々が清潔な環境に住み、薬を飲むようになったからです。私は小学生の時、全校生徒全員で月に1回の割合で寄生虫の薬を飲まされました。古い友人がいなくなって、我々の強い防衛反応だけが残ったというわけです。

我々が胎児のときに、まず初めに、ありとあらゆる蛋白質に対して防衛反応を起こすようになります。その後、自分自身の蛋白質に対しては慣れてしまい、防衛反応を起こさないようになります。免疫寛容の状態です。これと同じように、小さい子どもの頃に、周辺の動物の蛋白質に対しても慣れてしまって、激しい反応を起こさなくなります。

アレルギーはメタボ系の病気の一つであるという説があります。アレルギーは未開の人々には稀です。1900年頃にはアレルギーを持つ人の割合は、わずか0.3%ほどだったという統計があります。現在ではもっと多くの人がアレルギー疾患を持っています。他のメタボ系の病気と同じように増加しています。NHKのドキュメンタリー番組「人体」のうち「腸」の話の中で、禅宗の修行僧にはアトピー性皮膚炎や花粉症が少ないことが報告されていました。禅宗の修行僧は精進料理を食べておられます。また歩きながら読経をしておられます。このNHKの番組では、「食物繊維を多く摂ることにより、クロストリジウムという細菌が増殖し、それが腸の免疫細胞の暴走を抑える」と説明されていました。

その他にもアレルギーはメタボ系の病気の一つであると主張する論文は多くあります。例えば、週に3回以上ファースト・フードを食べるとアレルギー疾患になりやすいという論文があります。またその仕組みとして、「ファーストフードによる最終糖化産物が、マスト細胞の表面に形成されて、間違い警報を起こしてアレルギー反応を引き起こす」という間違い警報仮説を提案している論文があります。私の外来の患者さんの中にも、メタボ体型の喘息患者さんが2,3人おられます。また。またメタボ体型でなくても、お菓子をよく食べるという患者さんも2,3人おられます。

私自身が花粉症の患者です。今年は、花粉症の季節の2、3週間前より菜食主義者となり、最も厳格な菜食主義を実践していました。しかし、花粉症の強度は例年と同じでした。2、3週間ではアレルギー反応を抑えることができませんでした。