次のような文章を書きました。
第三章 配偶者選択
第三章 配偶者選択
配偶者選択においても、自分の遺伝子を子孫に広めることが主な行動原理になります。
無性生殖と有性生殖
細菌は無性生殖します。細胞分裂により1匹が2匹に増えます。多細胞生物の体細胞分裂と同じ仕組みです。
ヒトは有性生殖をします。父親のDNAの二重らせんをほどいて、その半分(1本)をもらい、母親からも半分(1本)をもらい、それらを合わせて再び二重らせんにします。こうして有性生殖では、遺伝子を父と母からそれぞれ半分ずつ貰います。例えば父の遺伝子がAAで表され、母の遺伝子がaaで表される場合では、子どもは父からAをもらい、母からaをもらうので、子どもの遺伝子はAaとなります。
有性生殖では、大きい配偶子を持つ方がメスで、小さい配偶子を持つ方がオスです。大きい配偶子は卵であり、小さい配偶子は精子です。大きな配偶子を作ってそれを受精させ生育させるには、より大きなコストが必要です。このコストの差によりオストメスの戦略は異なるものになります(トリヴァース)。
オスでは精子を作るコストは小さいので、自分の子供を多く作ることが容易です。また、メスでは卵を作るコストや分娩出産のコストが大きいので、性行動はより慎重になります。
性淘汰と自然淘汰
ダーウィンはある時、クジャクを見るたびに不快な気分になりました。クジャクのオスは立派な羽根を持っていますが、飛ぶのに邪魔で、大型の肉食の鳥に狙われやすく、自然淘汰の理論では説明できません。シカのオスは大きな角(ツノ)を持つ場合があります。さぞ重いことでしょう。森や林を通るときに邪魔になります。
ダーウィン自身が出した答えは性淘汰です。生物は他の種とは弱肉強食の関係にありますが、同種の中にも競争関係があります。オスは互いに競い合い、優秀なオスが慎重なメスによって選ばれます。メスによる選択の指標が、クジャクの羽根の立派さであったり、シカの角(ツノ)の立派さであったりします。性淘汰における利益と、自然淘汰における不利益が釣り合うところまで、立派さは進みます。
ヒトでは、おおむね一夫一妻制ですが、生物の中では、一夫一妻制はむしろ例外的です。例えばゴリラは、一夫多妻制のハーレムをつくります。チンパンジーは、多夫多妻制で、グループ内の生育したオスは、すべての生育したメスと交尾を行います。一夫一妻制となる可能性が高いのは、メスから見て、子育てが大変で雄の助力を必要とする場合や、オスから見て、子どもが自分の子であると確信できる場合や、少ないメスを確保しようとする場合です。ヒトの場合、子どもが大きくなるのに時間がかかり手間がかかります。また狩猟に出かける男は、集団で協力して狩りを行うので、男から見れば、残してきた妻と不倫をするかもしれない他の男たちと一緒にいると言うことです。女も集団で協力して採集を行うので、女から見れば、自分の夫が関係を持つかもしれない女達と一緒にいるということです。男から見て、子どもが自分の子であると、ある程度確信できます。
結婚の効用
ダーウィンは次のように述べています。「独身である事はどんな好ましくない職業よりも、どんな衛生上の会前の試みも出されたことのないような最も好ましくない住居や地域に住むことよりも、人生にとって破壊的である」。また、次のように述べています。「結婚すること自体が、長生きの主たる原因だ」。これは現在から見てもその通りです。米国の統計でも日本の統計でも、独身の人は結婚している人に比べて、男では10年、女では5年寿命が短くなります。この短縮は、タバコを吸うことや、糖尿病であることを上回ります。ただし夫と死別して独身となった女性の寿命は、あまり短縮しません。この理由として、私は、生命保険金が手に入ることを考えています。
結婚生活をうまく行うことが必要です。しかし夫と妻の利害が対立することもあります。身内の人とは血のつながりがありますが、配偶者はまったくの他人です。子どもという共通の利害があるだけです。相互に自分の遺伝子だけを子孫に増やそうとします。夫婦関係を維持するコストが上昇したり、家庭外により良い配偶者候補が出現したりすれば、夫婦関係は脅威にさらされます。夫婦間の利害の調整に失敗すれば、離婚の心理メカニズムが発動します。未開の地にも離婚はあります。離婚すると子どもは通常片方の血のつながった親からの援助を受けられなくなります。離婚は、子どもの社会的な予後を悪化させるので、避けられるものなら避ける方が賢明です。ベーカーは幸福な家庭について次のように述べています。「適切な状況で適切な相手と一緒なら、最大の子孫繁栄を達成する1番の方法は、ときには一夫一妻の夫婦関係の中にある」。ヒトが繁栄した理由の一つは、一夫一妻制を採用したことです。
子供の数が増えるに従って、離婚する人の割合が減ります。子どもが1人だと自分の遺伝子の半分は絶えてしまいますが、子どもの数が多いと、自分の遺伝子の多くが子孫に広まることが期待できます。
ある人は5,000種の生物を調べて一夫一妻制の生物はわずか3%であると報告しました。鳥は、通常は一夫一妻制です。DNA鑑定によれば、つがいの子のうち、10%から30%が婚外子です。これはヒトを含む他の生物の場合でも同様です。自分の子どもを他人に育ててもらえば、養育のコストはほとんどゼロで済みます。一盗二卑と言う言葉もあります。結局は自分の遺伝子をいかに広めるかということです。