進化心理学に対する批判として「進化心理学は、人間の精神的疾患について、いかなる治療法をも提供していない」という指摘があります。確かに、精神医学の本を見ても、進化論に基づく治療法は見当たりません。また、精神科の医者が進化を踏まえた治療をしているという話を聞きません。

フロイトによる精神分析においても「解釈」があります。例えば、赤ずきんちゃんの赤は生理の赤を意味するというような解釈です。本当かどうか確かめようがありません。つまり、進化心理学と同じ「なぜなぜ話」です。しかし精神分析では、自由連想法や夢分析などにより、無意識を意識化させて、神経症の一部を治療することができます。

ドブギャンスキーという人は1973年に「進化の光をあてなければ、生物学の何ものも意味をなさない」と述べたそうですが、もし進化心理学が、苦しむ患者さんの役に立たないのであれば、医学知識としての意味は無く、せいぜい心理学の一部分に過ぎないことになります。

現在でも未開の人々は狩猟採集生活をしています、そうした未開の人々の中には、うつ病の人はほとんどおらず、人々は精神的に非常に健康であるとのことです。

未開の人々は、男性は狩猟、女性は採集を行って、長距離を移動して、体を動かしています。ハーバード大学精神科准教授のレイティ先生は、うつ病に対する治療の一つとして運動を勧めておられます。その他、ストレスや不安や薬物依存症に対しても、運動を勧めておられます(「脳を鍛えるには運動しかない」)。

また未開の人々は、平等で、相互に助け合います。これもうつ病を予防する要因になります。

さらに、精神科の疾患にとどまらず、未開の人々には、メタボ系の病気がほとんど見当たりません。高血圧、2型糖尿病、高脂血症、脳梗塞、脳出血、心筋梗塞、認知症などがほとんど見当たりません。未開の人々は、イモ、野菜、果物、肉などの自然食品を食べています。それらの食品は、加えられた砂糖や食塩や悪い油や化学調味料を含んでいません。

このように、進化を踏まえた治療法の提案が無いわけではありません。むしろ、有り過ぎるくらいです。