今週の進化医学
(1)BBCは、高血圧の被験者に自然食品だけを食べてもらう実験をしたことがありました。高血圧の9人の被験者に自然食品だけを食べて12日間過ごしてもらったところ、終了時には血圧が低下したとのことです。また同時に、体重も平均4.4kg減少したとのことです。これは、「火の賜物」(p18)にも紹介されています。
https://www.youtube.com/watch?v=8qxm5qgEmtk
https://www.youtube.com/watch?v=8qxm5qgEmtk
(2)「リスク認知バイアスの進化心理学的な解釈」(小松ら、2011年)を再度読みました。我々のリスク認知は、進化の過程から強い影響を受けているとのことです。
http://criepi.denken.or.jp/jp/serc/discussion/download/11033dp.pdf
http://criepi.denken.or.jp/jp/serc/discussion/download/11033dp.pdf
未開の人々には、メタボ系の病気はほとんどありません。石器時代の我々の祖先も同様であったと考えられます。それで我々には、メタボ系の病気に対する本能的な恐怖心は、あまりありません。石器時代にも事故や殺人はあったので、それらに対する恐怖心は我々にもあります。
(3)「人は食べられて進化した」(ハート、伊藤訳、2007年)を読みました。
「食べる側にとっては1回の食事に過ぎないが、食べられる側にとっては死を意味する」とのことです。それで、進化の圧力は、食べられる側に圧倒的に強く作用するとのことです。
「狩猟採集生活」という表現のように、ヒトが狩猟する側面は強調されているが、食べられる側面は軽視されているとのことです。
このように、人間の起源に関する議論は、現在の霊長類、現在の未開の人々、発見された化石を主な根拠にして、しかもその一部分だけを都合よく解釈しているので、あまりあてにならないとのことです。
(4)「家族進化論」(山極、2012年)を読みました。
「80の文化にまたがって父性行動を比較したアメリカの人類学者マリー・ウエストとメルヴィン・コナーは、20%の文化では父親がほとんど赤ん坊の近くに寄らず、残りの文化でもまれに接触するだけで、わずか4%の文化にしか親密な交渉に特徴づけられた社会は認められなかったと指摘している」 (「The Role of the Father on Human Development人間の発達における父親の役割」より)
父性行動の相手が赤ん坊である場合には、父親が生きていくための知恵を伝えようとしても、なかなか困難です。周産期の母子の感染症や、新生児の感染症を防ぐ目的で、父親を母子からから隔離する意味はあります。
この本の最近の版では、文化をいくつかに分類して、父親が子どもに直接に関わる度合いを比較しています。当ブログでも、以前、その比較の表を引用しています(再掲)。

狩猟採集生活をする人々は一夫一婦制であり、父親と母親と子どもは一緒に寝るので、父親と子どもとの直接の交流は、多いとのことです。父親から見て、子どもは、自分の子どもである確率が高いので、自分の時間とエネルギーを、子どもの教育に投資しても、自分の遺伝子を広める観点から、充分にペイするとのことです。教育には手間とヒマと愛情が必要です。
これに対して、一夫多妻の文化では話が異なります。ギネスブックによれば、1000人近くの子どもを持った父親がいるそうです。1人の子どもから見て、週に10分間だけ、父親が自分と遊んでくれるのであれば、父親から見れば週に1000(人)×10(分)の時間が必要になります。父親は、眠らずに、飲まず食わずで子どもの相手をする必要があります。子どもの数が増えると、父親は一人の子どもに充分な時間を取ることはできなくなります。
ケンブリッジ大学教授のラムLamb先生が編纂されたこの本は、人間の発達には父親が非常に重要な役割を果たしていることを説明しています。ヒトがサルから進化した際にも、父親の経験が子どもに伝えられたことが重要な契機となったと考えられます。個体発生は系統発生を繰り返す傾向があります(ヘッケルの法則)。
山極先生は、さらに同じ論文を引用して次のように述べておられます。「現代の工業社会では、父親と赤ん坊が交渉をもつのは、一週間に平均してわずか45分程度で、多い者でも1日に3時間を超えることはないという」
これについて、BBCの「パパの生物学Biology of Dads」は、冒頭で次のように述べています。
https://www.youtube.com/watch?v=XFA1ZDqgpEI
https://www.youtube.com/watch?v=XFA1ZDqgpEI
「1970年代に、父親が子どもに関係した活動に時間を使うのは、1日に平均15分ほどであった。しかしこの25年で1日に2時間近くにまで増えている」
アメリカ政府やカナダ政府は、父親が子どもにしっかり関わることを勧めています(Wikipedia「父親の役割」)。