(1)「精子戦争」(ベイカー、秋川訳、2009年、河出文庫)を再度読みました。

この本の最終章は「貞節の成功」です。幸福な家庭の一例が描写されています。「適切な状況で適切な相手と一緒なら、最大の子孫繁栄を達成する一番の方法は、ときには一夫一妻の夫婦関係の中にある」(p418)

(2)英語版Wikipedia「進化心理学Evolutionary Psycholgy」の「つがい形成mating」という項目を読みました。
https://en.wikipedia.org/wiki/Evolutionary_psychology#Mating

「戦略干渉理論strategic interference theoryによれば、片方の性の繁殖戦略が、他方の性の繁殖戦略と食い違う場合には、両者の間に争いが生じ、怒りや嫉妬などの感情が引き起こされる」

(3)英語版Wikipedia「血縁の認識kin recognition」を読みました。
https://en.wikipedia.org/wiki/Kin_recognition

「血縁淘汰のためには、血縁の認識は必要ない」

(互恵的でない)一方的な利他行動は、人間以外の生物では血縁関係のある時に行われるだけです。その場合でも、例えば真社会性昆虫のワーカーにとって、世話をする対象が自分の血縁であることを認識している必要はないということです。事実で血縁であれば良いということです。

この記事によれば、植物では血縁(近親)の個体と隣接する場合には、共存共栄を計り、背を高くして葉を増やすなどの敵対的なことを行わないとのことです。

近親婚を回避するためには、血縁の認識は必要です。この記事では、近親を認識するための仕組みの一例が紹介されています。

私の感想です。
・托卵の場合には、世話をする親は、ヒナが自分の血縁でないことを認識していません。
・キブツでは、ある年齢の時に一緒に暮らした異性とは結婚しないのだそうです。
・子どもが生まれた時に、父方の祖父母が「父親の子どもの時と似ていない」と騒ぎ出すことがあるそうです。
・一卵性双生児による血縁の認識は、二卵性双生児の場合と同じかもしれません。つまり通常の兄弟と認識しているかもしれません。

(4)「人はなぜ恋に落ちるのか」(フィッシャー、大野訳、2007年、ヴィレッジブックス)を読みました。

「約350万年前に暮らしていた人間の祖先も、一人の相手と夫婦関係を結んでいたのは、子どもひとりが幼年期を過ぎるまで(四歳くらいになるまで)のあいだ、ともに子育てをする時期だけだったのではないか」(p212)

フィッシャーは、他の生物からの類推でそのように主張しているだけです。確かに4歳児は、一人で食事ができますし、ズボンも一人で履けます。手がかかりません。しかし、その4歳児が、社会の中で一人で生きてゆくまでには、非常に多くのことを学んで実践する必要があります。子どもは世間については何も知らないので、父親の持つ情報は子どもにとって貴重です。24時間、その子どものために行動するのは、母親の他は父親だけです。

(5)「愛はなぜ終わるのか」(フィッシャー、吉田訳、1993年)を再度読みました。

「離婚は結婚後四年目のカップルが最も多い。離婚のリスクがいちばん大きいのは二十代、生殖能力がもっとも高い年代である。そして、離婚した夫婦の多くに子供がひとり、あるいはふたりいる。離婚したひとたちは若いうちに再婚する」(p112)

しかし、フィッシャーは次のように、人間の子ども時代が長いことを説明しています。
(長い子ども時代は)「ますます複雑になる世界を子供時代に学んでおくための時間である」(p219)

そうしてフィッシャーは、男の子については、「どこで火打ち石その他の石を見つけるか」など、生きてゆくために必要な10項目の知識を列挙しています。また女の子についても、「どうやって火を運ぶか」など必要な8項目の知識を列挙しています。そして、「こうしたことを覚えるためには時間がかかり、試行錯誤をくりかえさなければならず、知性が必要だ」と述べています。

こうした知識を身に付けるには、知っている人から教えてもらうことが必要です。試行錯誤だけでは発見できません。初めて学ぶには時間がかかります。教える方と学ぶ方の双方に、忍耐とエネルギーと時間が必要です。そのような忍耐とエネルギーと時間を持つのは、実の父親だけです。

子どもが、身の回りの世話を必要とするのは、主に子どもが小さい時です。主に母親が行います。しかし、独り立ちして生きてゆくための知識を学ぶのは、主に子どもが大きい時です。主に父親が行います。子どもが社会でうまく生きてゆくためには、最初の4年間だけでなく、もっと長い時間が必要です。

妻の血縁者から見ると、夫は赤の他人です。妻の血縁者には、妻の遺伝子を増やそうとする動機はありますが、夫の遺伝子を増やそうとする動機はありません。夫は不要のように思えるかもしれません。しかし、子どもがいるのなら、子どもを教育する人が必要です。子どもとずっと一緒にいて、世間や安全や努力について教える人が必要です。単に子どもにお金を与えるだけでなく、働き方を実地に教える必要があります。子どもは、親の後ろ姿を見て育ちます。子どもは、父親が持つ情報を必要としています。生きてゆくための情報は貴重です。父親がいない場合には、子どもの社会的な予後は、平均すれば、良くありません。妻の血縁者は、子どもの教育係として赤の他人の夫を雇っていると考えれば良いでしょう。夫は、24時間勤務ですが、給料は無料どころではなく、逆に払ってくれるのです。また、子どもが危急の時には、命と引きかけに助けてくれるのです。こんな便利な存在は、他にありません。優秀な使用人として大切にすべきです。

4年で別れるのは、日常生活動作だけの問題です。サルのレベルの話です。ヒトのレベルを達成するためには、父親が子どもにもっと長期に関与する必要があります。