以下のような本を読みました。

(1)「ア・グッド・エイジ」(カリフォルニア医科大学カムフォート教授、宗訳、1986年)
この本は、かなり古い本ですが、内容は、なかなか近代的で行動的です。
著者は、老齢者に対する偏見を列挙し、それを否定しています。(p36)
「(高齢者用の)テストの材料は退屈で無意味であり、ばからしいと老齢者は見なしている」(p77)
「老齢者は、もし自宅にいれば、買物、食事の支度など、絶えず刺激を受けることがあるだろう。しかし、施設では何もしないで、ただ座っているように言われるに違いない」(p194)
「(良い)老人ホームは、活動の自由、以前と変わらぬ物事に対する責任、プライバシー、選択の自由などの要求に応じるようになるだろう」(p194)
また著者は、老齢者差別に対する反対運動を行うように、老齢者に呼びかけています。(p237)

老人共闘会議を作って、警官隊ともみ合ったりすると、骨折や heart attackを容易に起こすかもしれません。

(2)「愛する能力」(瀬戸内寂聴、2004年)
「(日野原先生は)『老いとは衰弱ではなく成熟するものだ』という自説をいきいきと話して下さる」(p242)
「(日野原先生は)九十歳で八十歳の私と同じくらいの過密スケジュールを楽々こなしていらっしゃる。私の八十歳のスケジュールも人はみな驚いて人間じゃないようにいうが
九十歳の先生のスケジュールを拝見したら卒倒するであろう」(p242)

精神も身体もl使うほどによくなるようです。老化の消耗説は誤りのようです。

(3)「老いて賢くなる脳」(ニューヨーク大学ゴールドバーグ教授、藤井訳、2006年)
「外傷性脳損傷でも、アルツハイマー型痴呆、コルサコフ症候群でも、失われるのは具体的な事実に関する意味記憶なのである。一般的な情報は、無傷のままが多い」(p134)
「思い出す回数が多く、使用頻度が高い記憶ほど、長期記憶に格上げされるのが早くなる。長期記憶として保存されれば、脳の皮質下構造に依存しなくてすむので、アルツハイマー病などによる痴呆の影響を受けにくい」(p136)
「回し車やトンネルなど、『脳を刺激する知的道具』をたくさん揃えた環境にマウスを置いたところ、何もない環境より最高十五パーセントも新しいニューロンが増えていたし、知能テストでも好成績をあげた。そしてニューロンの増加がとくに顕著なのが海馬だということもわかった」(p232)
著者のゴールドバーグ教授は、運動ジムのような形で、1回1時間、週に2、3回の認知能力訓練プログラムを提供し、好結果を得ているとのことです(p250)。

(4)「『老い』に負けない生き方」(ハーバード大学ランガー教授、桜田訳、2011年)
「(老人ホームの)老人たちを二つのグループに分け、一つのグループには、いろいろなことを自分で決めてもらうようにする。(中略)。もう一つのグループの老人たちには、いつも通りの老人ホームの生活を送ってもらった。実験を始めてから一年半がたち、(中略)、自分で決めるグループのメンバーのほうが、より元気があり、活動的で、頭の働きもしっかりしている。(中略)。しかし、もっと驚いたのは、自分たちで決めるグループから出た死亡者は、いつも通りのグループの死亡者の半分にも満たなかったということだ」(p8)
「(老人ホームの)老人たちは、とくに何をするでもなく、ただぼんやりと座っている。自分の人生なのに、自分で決められることなんてほとんど何もない」(p60)

情報を提供して、自分で選択して頂くことが重要であるようです。

(5)「長寿を科学する」(祖父江逸郎、岩波新書、2009年)
「寝かせきりで動かないでいる時間が長くなり、自然に寝たきりに追い込まれてしまうことも少なくない」(p86)
「百寿者の家系には長寿者が多い。動脈硬化、アルツハイマー型認知症の危険因子が少ない、がんなど悪性腫瘍に関する遺伝子が少ない」(p104)

(6)「老化はなぜ進むのか」(京都大学近藤祥司先生、ブルーバックス、2009年)
「老化がバリアーとなって、腫瘍の成長を食い止めている」(p85)
「がん遺伝子Ras-val12を導入した場合、正常細胞では老化のメカニズムが働き良性腫瘍で留まるが、さらに何らかの遺伝子変異が追加で起こると老化せずに悪性腫瘍へと進展してしまうというモデルが考えられます」(p85)
この本では新しい知見が多く紹介されています。『老化はがん対策のため』という考え方は、了解できます。紫外線が皮膚にたくさん当たると皮膚老化が起きます。運が悪いと皮膚がんができます。高齢の人では、がんの増殖はゆっくりになります。高齢の人ではがん検診の必要性が低くなります。「老化はがん対策のため」という考えは、老化のプログラム説の一つです。

(7)「老い(下)」(ボーヴォワール、朝吹訳、1972年)
「老いがそれまでのわれわれの人生の哀れなパロディーでないようにするには、ただ一つの方法しかない。それは我々の人生に意義をあたえるような目的を追求しつづけることである」(p637)